焦る先の闇
(2/5)
何事も無く過ぎ行く時は早い。早朝に観世音菩薩から賜った命を思い返しては、白羅の口からは溜め息ばかりが漏れていた。
早々に医務室を訪れ、必要書類とチェック項目を確認し、滅多に座ることの無い椅子に腰掛けては頬杖をつく。
しかしその手は徐々に白羅の顔を覆っていき、それに比例するように白羅の心の影も濃く、厚くなっていた。
この事が李塔天の耳に入っていなければいい。どうか杞憂に終わって欲しいと祈りながら、白羅がドアの方へと目を向けると、いつぞや出くわした金蝉童子と、見慣れぬ少年が姿を現した。
すると白羅はすぐに腰を上げ、金蝉とお互いに形式的な挨拶を済ませてから少年に視線を移す。
その獰猛さ故か、少年は枷を付けられたままではあるが、なんともあどけない目を輝かせながら白羅に飛び付いた。
「俺、悟空!悟空って言うの!金蝉が付けてくれたんだ!」
裏表などとは全く無縁で、真っ直ぐ澄んだ黄金の瞳。その出で立ちからは、この少年が獰猛であるとは俄には信じられなかった。
「悟空……ですか。良いお名前を頂きましたね」
この悟空という少年が、先日ナタクが連れて来たいと言っていた相手だろう。
そう言われた時は穏やかではいられなかったが、実際に会ってみた今では安堵感すら覚えていた。
しかし、それは李塔天が出てこなければの話。
白羅はどうか何事も無く……と、願うばかりだった。
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