暗雲と兆し

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いつの間にやら溜まり場と化した金蝉童子の部屋には、捲簾大将、天蓬元帥が集まっていた。しかしそこに悟空の姿は無く、また面倒事を起こしてくれるなよと、金蝉が痛む額に手を当てていると、勢いよく部屋のドアが開き、そこから悟空が顔を出した。


「金蝉!ちょっと出かけてくる!」

「はっ?てめぇ、今までほっつき歩いてた癖に出掛けてくるだと?」


足音を響かせて悟空に近付き、そのまま悟空の首根っこを捕らえた金蝉は、眉間の皺を深くして睨み付ける。


「遊んでねぇで散らかした物は自分で片付けろ!じゃねぇと天蓬の部屋みたくなるぞ!」

「後で片付けるから放せよっ!」

「ダメに決まってんだろ!暴れんな猿っ!」


容赦なく振り落とされる鉄拳に肩を落とす悟空は、渋々片付けをはじめたが、ひとつ片付ける度にちらちらと金蝉を恨めし気に見るものだから、堪らず捲簾が助け船を出した。


「ほら、手伝ってやっから早く片付けちまえよ」

「ケン兄ちゃん、ありがと」

「捲簾、そいつを甘やかすんじゃねぇよ」


悟空がむすっとした目を金蝉に向けると、自分が反面教師に使われているのに何処吹く風といった天蓬が苦笑する。


「悟空、何処に行くつもりだったんですか?」

「……ないしょ」

「はぁ?言えねぇような所に行くつもりだったのかよ、てめぇは!」

「まぁ、まぁ、落ち着いてくださいよ、金蝉」


口を閉ざした悟空に諭すように、天蓬は悟空の傍まで近付いて少し屈む。それからお互いの目線が合わさった所で表情を緩めた。


「金蝉は悟空が心配なんですよ。ちゃんと行き先を教えてくれないと、片付けが終わってもお許しは出ないと思いますよ?」

「……白羅の所でナタクと一緒にお菓子を食べる約束したんだ」

「白羅……だと?」


その場に緊張が走った。金蝉、捲簾、天蓬は顔を見合わせ合い、どうしたものかと静かに悟空を見やるも、三人の表情は芳しく無い。


「悟空は白羅と仲良しなんですか?」

「うん!友達!」


天蓬の問いに間髪入れずにそう答えた悟空は、お許しが出るのを今か今かと待ちきれない様子で顔を輝かせた。しかし三人はそれに素直に頷けず、複雑な心内を表に出さないようにするのが精一杯だった。


「ま、とりあえず片付けちまおうぜ。話はそれからだ」

「……わかった!」


いやに素直な悟空から察するに、余程楽しみにしているのだろう。これで駄目などと言おうものなら、目に見えて落ち込んで暗澹たる空気で覆い尽くされてしまうのが目に見えて判る。金蝉はどうしたものかと頭を悩ませた。


「いい噂は聞かねぇな」

「まぁな。ただの軍医だった頃とは違うからな」


金蝉と捲簾の懸念していることは当然だが、天蓬はそれだけでは無いと首を振った。そして、これは僕の憶測ですが、と前置きをした上で口を開いた。


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