暗雲と兆し

(3/7)
「彼女、あの李塔天に何か企てている様なんです」


天蓬は再度自らの憶測だと念を押した後、片付けをしている悟空を窺いながら話し始めた。






元はただの軍医であった彼女、白羅は、ある日を境に罪人となった。暫く牢に入れられ時を過ごしたが、そこから出てきてすぐに彼女はナタク付きの医者となり、そのナタクとは今では闘神太子であるということは、周知の事実である。


「あの李塔天がわざわざ天帝に懇請して身元を引き受けたって話か?あの時はなんの目的があってって思ったもんだが、腕のいい医者が欲しかったんじゃねぇかって結論に落ち着いたやつだろ?」

「ええ。当時は彼女が不浄な研究をして投獄されたというインパクトが強すぎて、李塔天の事はその程度にしか話題にもなりませんでした」



極めて含みのある言い方をする天蓬に金蝉は眉根を寄せる。捲簾と天蓬が過去の出来事を擦り合わせながら話している中で、自分は知っているようで知らない話だと心の中で悪態をつきながら天蓬に視線で先を促した。



「しかしですよ?いくら腕のいい医者であっても、普通、不浄と烙印のある罪人を自らの息子に付けますか?それも、命を預けることもある医者として」

「ちょっと待て。お前、さっきあの女が李塔天に何か企てているって言ったよな?」

「ええ。言いました。憶測ですがね」

「ざわざ懇請してまで身元を引き受けた李塔天に感謝こそすれ、何故お前はあの女が何か企んでいると踏む?」

「ええ、そこなんですけどね」


金蝉は退屈に溶けていくだけだった脳の動きが、今までの怠惰によって大分鈍くなっていた事に苛立ちを隠せなかった。憶測と前置きする天蓬も、それに頷きながら言問う捲簾も、何も知ろうとしなかった自分とは違い、最前線に立つ現役軍人なのだと痛切に感じた。


「彼女の釈放に一役買ったのは間違い無く李塔天です。しかしながら、彼女を告発したのも李塔天サイドの人間なんですよ」

「……は?自分で陥れて助けたってことか?何の為にんなことしたんだよ、あのオッサンは」

「……手元に置くため、か?」



徐に金蝉の口から零れた言葉に天蓬が頷く。その目は普段の天蓬からは想像もつかない、天蓬元帥としての確かな目だ。


「箝口令が敷かれていますが、彼女が人や妖怪、そして我々天界人との違いについて研究していたのはご存知ですよね?……彼女は単なる暇潰しだと上申していましたが、結果、彼女は拘束されました。その間に、下界での討伐任務が急増し、我々天界軍が疲弊していた裏で彼女は李塔天の手によって釈放され、その後に見計らったようなタイミングで闘神ナタク太子の登場とあれば……」



天蓬は金蝉と捲簾を順に見た後、一瞬だけ哀しそうに目を伏せるがそれも束の間の事で、直ぐに表情を引き締めた。それはまるで、今からの言動の全てに責任を持つという心情が滲み出ている様な顔だ。



「全ての事実がタイミング良く並べられ過ぎているんですよ。作為的過ぎると断言できるほどに」


.
- 32 -

ListTopMain
>>Index