悠久に差すは木漏れ日か

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荒々しくドアが開くと、相手への気遣いなど皆無だと言わんばかりの我が物顔の李塔天が入室してきた。礼など必要ないと勇んで入ってきたようだが、そこに白羅と金蝉が一緒に居た事に僅かに怯んだものの、直ぐ様威圧的な態度に変わった。


「久しぶりですな。金蝉童子」


身分を考えれば失礼極まりないその投げ槍な挨拶に金蝉は何の気もなしに鼻で返すが、その鼻持ちならない金蝉が気に障った李塔天は傲然たる構えで立ちはだかった。


「金蝉童子は何用でここに?」

「フン、随分と白々しいな、李塔天」

「何の話やら」


全て判っていると言外に覗かせて金蝉が言い放つと、李塔天は嫌な笑みを浮かべてそれを迎え撃つ。自分の所業が明るみに出たとして、それで今の地位が崩れる事など微塵も無い。例え非難の声が上がったとて、それを揉み消す事など容易いとばかりに李塔天は高見の見物を決め込んでいるのだ。


「私の事より、金蝉童子。貴方ともあろうお方がこんな所に居ると、あらぬ噂を呼ぶのではないですか?」

「……どういう意味だ」

「おわかりにならないとは、些か無警戒過ぎるのではございませぬか?」

「だから、どういう意味だ」

「……未婚の男女が密室に居るのは外聞も悪うございましょう。ましてや高位なるお方が一端の医者にお手付きとあれば……」

「李塔天様……!!」


聞くに堪えない侮辱の数々に白羅は声を上げる。品の無い物言いと金蝉に対する蔑視に怒りが抑えられなくなり、思わず李塔天の言葉を遮ってしまった。

しかしここで李塔天の不興を買うのも得策とは言えず、かといって一番身分の低い白羅が二人に物申した所でそれはそれで不興を招いてしまう。この天帝城の中は不自由極まりないと、白羅はこの様な場面に立たされる度に己の立場を思い知らされるのだ。


白羅が窺う様に金蝉を見ると、金蝉から大丈夫だという力強い目が返ってきた事で暫し安堵するが、李塔天を前にするとどうしても胸が騒ぎ立ち、普段より早い鼓動に手が震えてしまう。そんな白羅と金蝉を舐める様に見た李塔天は、顎に手を当てて呟いた。


「ほう。これもまた一興」


顔を見れば一目瞭然。悪辣な腹の内が嫌でも判った。これ以上、何を課せようというのか。李塔天という人物の裏の顔を知る白羅は、今にも恐怖で崩れ落ちてしまいそうになるのだ。


「人払いが必要ですかな?ならば私は遠慮させていただきましょう」

「てめぇ……」

「金蝉様、どうかここは……」


今にも掴みかかりそうな金蝉を窘めつつ、白羅は金蝉と李塔天の間に立つ。次から次へと湧いてくる不穏な出来事には、最早溜め息をついている暇も無い。それぞれが腹に抱えるものを牽制し合い、出し抜く機会を窺ってみても、この場の主導権はとうに李塔天に握られていた。



「……李塔天様、金蝉様とのお話は終わりました故、すぐに参ります」


金蝉は白羅に視線を交える。この状態で李塔天と話すのは中々にして酷なのではないかと目で訴えると、白羅は小さく頷いて頭を下げ、諦めた表情を一瞬だけ浮かべていた。

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