悠久に差すは木漏れ日か
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天帝城の本館と西館の間を抜けると、低木が美しく並んだ庭園に出る。色とりどりの花が咲き、それを愛でながらお茶などを楽しめるようにと東屋も建っているのだが、悟空はその庭園を、迷うこと無く更に奥の方に突き進んで行った。
周りは次第に草木が生い茂り、思い思いに枝を伸ばした木々のトンネルを通り抜けた先で、やっと件の秘密の隠れ家に辿り着いた。
「これは中々にして本当の隠れ家、ですね」
「あの綺麗なねーちゃん、こんな所よく見つけてナタクに宛がったもんだな」
部屋に入りソファーに腰を下ろした天蓬と捲簾は、部屋の中に一通り目を通してから感嘆の声を漏らすと、悟空はそんな二人に自慢気に胸を張りながら本棚から本やら何やらを持ってきてテーブルに広げた。それはまるで勝手知ったるなんとやら。この部屋の主であるかのように得意気で、二人はそんな悟空に苦笑しつつも、悟空が何をするのか見守っていた。
「えーっと、ここまでやったから、今度は……ここから、だな!」
まじまじと悟空を見てみると、何やら平仮名と簡単な漢字をノートに書き綴っている。その傍らには、手書きと見られるお手本のような物が置かれていた。それを見比べながら書き綴る悟空に、天蓬と捲簾は目を見開いた。
「近頃、読み書きの覚えが良いと思ってはいましたが、まさかこんな理由があったとは驚きですね」
悟空の興味の惹きそうな言葉を並べ、書き順や使い方が丁寧に書かれたお手製のお手本には、この城の中での不穏など微塵も感じさせない深切があった。悟空もそれに応えるように、大切に大切にテーブルに広げていることからも、悟空と白羅の関係は思ったよりも深く健全なものであるのだと、二人は面食らいながらも納得してしまったのだ。
白羅は全く悟空に危害を加えようとしていない。それが解っただけでも収穫だったと、天蓬は捲簾に目配せした。
「金蝉も白羅も遅いなー」
ふと手を止めた悟空の呟きに天蓬も捲簾も頷いた時、タイミングを見計らったかの様に金蝉が姿を見せた。所々に葉を付け、足元を土で汚しながらも、金蝉は悟空の隣に腰を下ろした。
「あれ?白羅ちゃんは?」
間髪入れずに捲簾が疑問を口にすると、金蝉はみるみるうちに顔を顰める。それはただ単に面倒だからという理由では無く、顔を顰めたくなるような事が起きたからこそ白羅はここに居ないのだと、悟空以外の者は見て取れた。
「上官に呼ばれたようだ。終わり次第来るとは思うが……どうだかな」
小一時間ほど過ごしただけで、李塔天が白羅に対して絶対的な服従を強いているのが嫌というほど判った金蝉は、白羅がどうやって今までそれを掻い潜ってきたのかを思うと、ただただ驚嘆に値した。
正直な所、あの李塔天の裏で白羅が何かをしようなど戯れ事にしか見えず、控え目に言っても無理ではないか。金蝉はあの矜持と覚悟を持った白羅の目を見た後でもそれは変わらず、逆に、それを見たからこそ余計に危うさを感じてしまったのだ。
何処となく忍び寄る其処は彼と無い不安を感じながら、この隠れ家に白羅が訪れるのを待っていた。
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