悠久に差すは木漏れ日か
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白羅の心配をよそに、翌日から間近に迫った牛魔王討伐の為、城内はいつになく慌ただしくなった。
勿論、今回もナタクが闘神太子として討伐に当たるのだが、今回は今までの相手とは比較にならない、あの牛魔王が相手なのである。
幾ら闘神ナタク太子と言えど相手が牛魔王とあっては、苦戦を強いられる事も考えられるのだ。ナタクとて傷を負えば痛み苦しみ、考えたくは無いが命を落とす事だってあるのだ。自らの置かれている状況がどうであろうと、白羅はいつもにも増してナタクの身を案じていた。
「出陣準備で暫く来られないから、あのお茶、飲ませてくれよ」
「かしこまりました」
手早く準備しテーブルにお茶を乗せれば、ナタクは目を細めてそれを啜る。目を伏せ、様々な思いを馳せながら、ナタクはゆっくりとそのお茶を嗜んだ。
「ナタク様、どうか、……どうかくれぐれもお気をつけて」
縋るように言葉を漏らす白羅に、ナタクは穏やかに笑った。闘神太子としてでもナタクとしてでも、白羅はいつも自分の身を案じてくれる。口だけでは無く、心の底からそう思ってくれているのは、長年同じ時を過ごしてきた中で身に沁みているのだ。ナタクは、そんな白羅だからこそ一緒に居ると楽に呼吸が出来るのだと、このお茶を飲む度に思うのだ。
「白羅は相変わらず心配性だな。心配すんな。大丈夫だよ。仮にもし俺に何かあっても、お前が絶対治してくれんだろ?」
「……それは、そうですが……」
「ん?じゃあ何が心配なんだ?」
泣き出しそうな白羅にナタクはおどけて見せる。いつもなら溜め息のひとつでも漏らして笑ってくれる白羅なのだが、この日は普段にも増して憂いていた。ナタクは困ったものだと思いつつも、そんな白羅を愛おしく思う。恋心というよりももっと深い、仁愛とでも言うのだろうか。あまり表に感情を出さない白羅がこうして心内を見せてくれる度、不謹慎ながらもナタクは温かさで一杯になるのだ。空になった湯飲みをテーブルに置き、ナタクはすっと立ち上がった。そして、ナタクに倣って立ち上がった白羅と静かに向き合う。
「白羅、俺、やっぱり何とかして出陣の前にここに来るよ」
「そんな、ご無理はなさいませんように」
「いや、来るよ」
澄んだ声が白羅の中を通り抜ける。美しい出で立ちのナタクは真っ直ぐ白羅を見つめ、白羅の頬に指を這わせた。昨日打たれて腫れた白羅の頬を、ナタクは痛ましそうになぞった。
「ナタ、ク……様……」
「俺だってお前が心配なんだぜ?お前が笑って送り出してくれないと、俺、頑張れねーよ」
「そ、そんな事仰らないでください!」
「うん。だから、また来る」
白羅は頬に触れているナタクの手に自分の手を重ねた。そしてその手を両手でそっと握り、自分の胸の前へ持ってきた。そして、己の全てを捧げる様に祈ったのだ。
「ナタク様のご無事を、心よりお祈り申し上げます」
白羅の熱が手を伝ってナタクに届く。それをしっかりと受け取ったナタクは力強く頷き、ゆっくりと部屋を後にした。
しかし、ナタクが出陣前に白羅の元へ訪れるという約束は、李塔天に阻まれ叶わなかった。そんな白羅がナタクと再開出来たのは、李塔天によりナタクが負傷して戻ってきたと伝えられ、直ちに治療せよとの命を受けてからだった。
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