不退転の決意

(2/5)
李塔天の使いの者により、ナタク太子が牛魔王討伐より帰還し深手を負ったと聞かされた白羅は、直ぐ様ナタクの元へと走った。そこには震えながら身を案じるという、出陣前に見せた顔が一切無いのは、それは送り出す時だけに許される行為だと白羅は知っているからだ。ナタクが帰ってきた今、しかも深手を負って帰ってきたとあれば、己がするべき事を十二分に理解している白羅は一刻も早くナタクの元へと急ぐのだった。






「大丈夫でございますかナタク様……」

「──触るな……!白羅を呼べ……!」


白羅がナタクが居ると言われた部屋に着くと、血に塗れたナタクが回りの者を振り払っている所だった。肩や頭からも血を流しながらも他の者の手を一切借りようとしないナタクに、白羅は走り寄ってその身体を支える手助けをすると、後ろから悟空も手を伸ばしていた。


「ナタク様お気を確かに……!」

「ナタク!」

「白羅……と、お前、は……」


弱々しくそう呟いたナタクはそのまま意識を手放した。大きく傾いたナタクの身体を悟空となんとか支えながら、白羅はナタクの身体をさっと診る。おおよその出血量、傷の大小などを瞬時に確認すると、白羅は悟空と目を合わせた。


「悟空、ナタク様を運ぶのを手伝ってください」

「わかった!」


ナタクを部屋に運び入れてからの白羅には迷いは無かった。診て触れて的確な処置を施していく白羅の姿に、数人居た従者は驚き、天界において特別な存在であるあのナタクが他者を拒んで唯一受け入れた罪人と謂れのある白羅を、唖然としてみているだけだった。


「そこの方々、立っているだけなら部屋の外でお願いできますか」


一瞬だけギロリと鋭い視線を向けられた従者達はムッとして手伝おうとするも、最早何をするべきかも判らず、かといって、罪人である白羅に指示を仰ぐなどとは矜持が許さない。白羅がたいそう傲慢に思え、結局従者達は鼻を鳴らして部屋を出て行った。

万が一でも事が起きれば、白羅が全ての責を問われればいいだけの話。今更罪状が増えたとてなんともあるまい。元々罪人なのだからなと、従者達は蔑んだ顔でドアを閉めた。


「白羅、ナタクは大丈夫だよな!?」

「もちろんです。ナタク様は、この白羅が命にかえてもお助けいたします。ですから、悟空はナタク様のお手を放さぬよう、しっかり握って差し上げてください」

「うん……!」




出来る限りの手を尽くしナタクの呼吸は安定してきたが、ナタクの意識はまだ戻らなかった。まだまだ予断は許されないが、大きな山場は越えたと、白羅は悟空に力強く頷いた。すると、緊張の糸が切れたのか、悟空は大きく息を吐き、今にも泣き出しそうな顔で笑った。


「……よかった……」

「私は報告をしに行かなくてはなりません。その間、ナタク様をお願いしてもよろしいですか?」

「うん。俺、ここでナタクと待ってるよ」

「何かあったらすぐに、私か、誰でもいいので人を呼んでください」

「わかった!」


お互いに頷き合った後、白羅は李塔天の元へと急ぐ。顔を合わせたくないというのが本音だが、そうも言ってはいられない。重苦しさを胸に抱えたまま、白羅は李塔天の部屋の扉を叩いた。


.
- 44 -

ListTopMain
>>Index