不退転の決意
(3/5)
「李塔天様、いかがなさいますか」
ナタクに関する報告を受けた後、李塔天はくつくつと口元を歪めて嗤った。面白いように描いた通りに動いてくれる。李塔天は、必死で足掻く様すら思惑通りだとも知らぬ白羅が心底可笑しくて堪らないのだ。
「やはり奴は有能だ。ナタクもあの悟空とやらも絆されているのだからな」
「……彼女がここを去ることは?」
「無い。奴はナタクを置いて行くことは万が一にも無い」
「では彼女の処遇はいかがなさいますか?」
李塔天は従者を見る目にまでも愉快さを隠しもせず、机に肘をかけてその手の甲に顎を据える。勿体付けるようにたっぷりと時間をかけて、その従者からの問いに解を示した。
「のらりくらりとさせておけ。奴が少しでも我らに反する事を成した時こそ、漸く始まりに辿り着くというものだ」
「我々はただ静観していればよい、そう言うことですね」
「如何にも。それまでに同朋に加わらぬ場合は奴を始末する」
「どのようにして、とお聞きしても?」
口元の笑みはここにきて更に深まった。恍惚とも取れるその表情に、従者は一瞬だけ戸惑いを見せる。しかし、それすらも一興とばかりに、李塔天は従者に向かって告げたのだ。
「最も適任した者がおるであろう。ここに於いて唯一殺生の許された者が」
「……まさか」
白羅はナタクただ一人に忠誠を誓っている。しかしながら、ナタクの主君とは云わずもがな李塔天なのだ。白羅が李塔天の命に背くなら、ナタクに命じさせれば済む事なのだ。どんなに理不尽な命であろうと、ナタクの為とあれば喜んでその命さえ差し出すだろう。ナタクの手にかかれるとあれば、この上無い冥土の土産になるやもしれぬと、李塔天は腹の底から込み上げる笑いに声を上げて応えた。
「ククッ。この享楽を味わえる日が楽しみだな」
肩を揺らしながら想像する先の明るい事この上無い。そしてこれが決して机上の空論などでは無いと、これまでの過程で確信に変わった。白羅を釈放する時は少々骨が折れたものの、安いものだと、今更ながらにあの時の自分を褒めてやろうではないか。
漸く報われる時が来るのだ。そう遠くはない未来に、必ずや訪れるその時を待っていればよい。ここまで来れば、誰が背いたとしても、その者に全ての罪を被せて始末してしまえば済む話だ。そもそも我らに罪などは無く、当然なる対価なのだ。白羅が従順であれば今後も働いてくれた方が役立つが、事が終われば邪魔する者も居なくなるのだから、多少時間はかかっても他の者に任せれば何とでもなる。
今はまだ、もっと足掻き、身動きが取れなくなるまで乱麻に絡めとられるがいい。自ずから命を差し出したくなる程に、足掻いて足掻いて、足掻ききった暁には、悠久の時から解放してやれとナタクに言付けておこう。しかしながら、今までの働きの労いを込めて、直々に極上の杯を賜ってやるのも悪くない。そうなれば安らかに眠れるに相違ないと、李塔天は口元を歪めながら報告書に目を落とした。
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