Good Night

(7/7)
床には破り取られて握り潰された黒い過去。
ベッドの上には真っ白な未来。




「三蔵は嘘つきだ」


くしゃくしゃになったページを見つめながらなまえは三蔵にしがみつく。


「何にも無いなんて嘘……。ここには沢山ありすぎなんだよ……」


思わず目を背けてしまいそうな温かさ。脆そうに見えても確かな繋がり。


「いつまでもごちゃごちゃと御託を並べてる暇があるなら、さっさと借りを返したらどうだ?」


ぐいっとなまえの顎を引き、三蔵は真っ直ぐになまえを見据える。そしてゆっくりと唇を近付けていく。


「俺はお前が好きだって言ってんだ。早く返事しねぇとキスするぞ」



しかしその言葉とは裏腹に、三蔵は直ぐになまえの唇を塞ぐ。
そして呼吸すら鬱陶しく思うほど重なり合った唇は離れる事は無く、吐息すらも逃がさないようにと、互いの手には力が込められた。


未だ『好きだ』と言葉にしていなかったなまえも、その強引なまでもの三蔵の口付けに、次第に唇からはその想いが溢れ、それは言葉となって零れ落ちていった。



「三……蔵……好き……」



そう聞こえた瞬間、三蔵の伏せていた目は見開かれ、それと同時に一瞬だけ唇が離れたが、なまえの言葉によって全身に熱が走った三蔵は、更に深く口付けていく。


するとなまえもまた、もう振り返りはしないと、三蔵からの深い口付けを受け止めていった。




──後で文句なんか言わないでよね。


──そりゃあこっちの台詞だ、馬鹿女。




劇的に何が変わるという訳ではないし、多分この先もこんな距離感で居続けるんだと思う。

それでも手繰り寄せた糸の先には、自分を見ていてくれる人が居る。



「……ここにはあの夜は無いんだよね」


「……さっきそう言っただろうが」



三蔵がそう言うと、なまえはふっと表情を緩めながら窓の外を眺め、『今夜は眠れそうな気がするよ』と、なんとも無防備な顔を三蔵に向けた。



「だったら早くこっちへ来い」


ゆっくりとなまえをベッドへ引き入れて、三蔵は傷の痛みも忘れてなまえを抱きしめる。




窓の外は夜の闇。目の前には金色に包まれた紫の瞳。



なまえはそれをしっかりと目に焼き付け、三蔵の胸の音に耳を傾けると静かに目を閉じた。




三蔵の腕の中という、やっと見つけた温もりの中で。


長い夜が明けるまで……。








『good night』



END
180/180

ListTopMain
>>Index