Good Night

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「……からかってんの?」


その猜疑心は、訝しさよりも不安からきたものだった。なまえ自身、自分の気持ちを八戒に打ち明けたばかりではあったが、昔を思えばやはり素直には受け取れない。


「生憎そんな趣味はねぇ」


三蔵はそう言いながらもなまえから目を逸らさずにいると、何を思ったのかなまえはすっと立ち上がり、近くに置いてあったバッグから手帳を取り出した。


そしてページを捲り、それを三蔵の前に差し出し口を開く。



「三蔵は……これを見ても同じ事、言える?」



三蔵が差し出された手帳に目をやると、そこは名前や時間、場所といったもので真っ黒に埋め尽くされていた。


なまえは悲痛な表情を浮かべてその手帳に視線を落とす。


「わたしがしてきた事、解ってる?」





愛だの恋だの紛い物ばかり。心に無い気持ちでも平気で口にし口にされても、信じたふりをして生きてきた。

元の世界で交わす愛は身体を繋ぐ為だけのものにしか過ぎず、なまえがどんなに心を求めても相手にされる事は無かった。


自分の素性を知る者は皆嗤う。


なまえは更に手帳を捲り、真っ黒になった手帳に過去を這わす。



「三蔵はさ……、腐っても三蔵法師なんだからさ、相手は選んだ方がいいんじゃない?」



想いが通じて欲しいと思っても、相手はどこに行っても名の知れたあの三蔵法師。

どこかで自分の素性が広がってしまえば、三蔵の名に傷を付けてしまうかもしれない。


一緒に旅をしてもらい、その上こんな自分でも人を好きになれたと解っただけで十分幸せではないか……。



「それでも……」



なまえはそう呟き静かに顔を上げる。僅かに震えて、今にも泣き出しそうな、あの無防備な顔で。



そんななまえを三蔵は引き寄せ、しっかりと抱きしめて呟いた。



「この手帳……よく見てみろよ」



なまえは三蔵の腕の隙間から言われた通りに手帳を覗いてみると、丁度この世界に来た頃あたりのところが開かれている。


菩薩に出会う直前までの予定がびっしりと、それ以降はちらほらと予定が書き込まれているが、その後は全て真っ白のままだった。


「三蔵……?」


「気になるんなら破り捨てちまえばいいだろう」






三蔵はそう言って、真っ黒に埋め尽くされたページを勢いよく破り取った。




「ここには何にも無ぇんだよ。お前が恐がってる夜だってな」
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