やがて、朝

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トントンと軽快な音を立てて、まな板の上には綺麗に形の揃った野菜が乗る。



「なまえ、手際がいいですね」


「ま、一人暮らしが長かったからね」


以前なら卑屈になってしまいそうな台詞も、今のなまえはさらりと言ってのける。


「随分と進歩しましたね」

「図太くなったんだよ、きっと」


昔のなまえと重ならない。心の中への入り口が少しずつ広くなっていく。


「三蔵のお陰ですね」



八戒は嬉しくも羨ましくもあり、そんななまえを誘導するかの様にわざと『三蔵』の名前を出した。


「……やっぱり八戒は手厳しいな」


苦笑して見上げるなまえにとびきりの笑顔を返し、八戒は本題に入る。



「ええ、ですからちゃんと話して下さいね?」



そう言いながら朝食の準備を終えた八戒は、いつの間に用意したのか両手にコーヒーの入ったカップを持ちながら、部屋のテーブルへとなまえを急かす。


しかしそれからなまえが口を開いたのは、香ばしい香りが部屋一杯に広がってからだった。



「あの……さ、わたし……」

「なんです?」


「その、眠れる……かも」


八戒は目を細めて静かにコーヒーに口を付けた。なまえの大きな一歩を一人噛み締めながら。



「それで……、あの、わたし……さ、三蔵が……」


「なんです?三蔵がどうしました?」


「えっ、や、やっぱりいい!!」


「なまえ、流石にそこまで聞いたら流せませんよ?」


「いや、でも……わたし……」





赤ら顔で俯く程に純粋ななまえは、あの様な過去にどれ程の苦痛と凌辱を強いられてきた事か。


それでも、彼女は人を求めた。得られないと解っていながらも、何年も何年も、夜に怯えてしまう程に拒まれ裏切られても、どこかに愛があると信じ続けた。



「なまえは……、三蔵の事が好きなんですね」


「えっ!?あの……、えっと……」


「バレバレですよ」







大丈夫、きっとそこに在ります。夜に怯えず眠れる場所も、きっとそこにありますから……。




そう心の中で呟いて、小さく小さく頷いたなまえに八戒は微笑んだ。



「なまえ、三蔵は気が短いですよ?」



八戒は、そう言っては綻んだ口元を隠す様にコーヒーカップに手を伸ばした。






──本当にバレバレですよ、二人共。

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