身の程を知れ

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三蔵に引かれ、なまえはとぼとぼと歩いていた。肩に三蔵の法衣をかけられ、今までの威勢のよさは何処へ行ったのか、黙って三蔵に連れられて行く。


「んな格好して外へ出るんじゃねぇよ」


握った手に力を込めて精一杯の思いを口にした三蔵は、なまえの手を引きながら一歩先を行く。本当に言いたいことを中々口に出来ない自分を棚に上げ、気持ちとは裏腹の言葉の裏を読めなどとなまえに求めてしまうのは、己の甘えなのだと三蔵も判っている。しかし、なまえの後先を考えているのか不安になるような発言に、三蔵はつい苛立ってしまうのだ。


「なんでこっちに来てまで男に愛想振り撒く必要があんだよ」

「それは、潜入するにはそれしか……」

「それでもだ」


三蔵はピタリと足を止めなまえを振り返った。あの射抜くような鋭い視線の中には、なまえへの思いが乗せられている。そんな三蔵になまえは息を飲み、唇を噛む。冷静になって思い返してみれば、お互いになんて大人気なかったんだろうと、なまえはそっと顔を伏せた。


「……ごめんなさい」


なまえがそう呟くと、三蔵は再び歩き出す。そして、本日の宿である一室に入るなりなまえをベッドに座らせた。三蔵は、前の世界で散々男に弄ばれてきたなまえに、こちらの世界でもそんなことはさせたくなかったのだ。もちろん、あの高級クラブがそんな所だとは思っていないが、それでも、はいどうぞと自分以外の男の前になまえを出せる訳が無いのだ。


「見ず知らずのヤツと話すな。触らせんな。むしろ、目も合わすな」


そうだ。これは単なる嫉妬なのだ。なまえを知る者など、自分一人で十分なのだと、三蔵はなまえを腕の中へ閉じ込めた。何処にも行かせない。ましてや置いていく気も更々無い。いつでも自分の目の届くところに置いておかなければ、三蔵は不安で仕方無いのだ。


「わかったら返事しろ」

「三蔵……」


なまえは三蔵の腕の中から紫暗の瞳を見上げた。判りにくいが、いつでも真っ直ぐに向けられるその目は、なまえだけを映している。暫く見つめ合った後、お互いの唇は自然と重なり、お互いの足りない部分を補うように何度も何度も唇を交わし、その合間に三蔵が囁く。


「なまえ、返事しろ」

「……んっ」

「余計なこと考えて無ぇで、お前はずっとここに居ろって言ってんだ。わかったのか?」

「んっ……わかっ、た」


絶え間なく落とされる三蔵のキスに、なまえは少しずつ蕩かされていく。三蔵の言葉にどんなに腹が立っても、その裏を知れば結局こうなってしまうのだ。


「アイツが選んだ服なんていつまでも着てるんじゃねぇよ」

「え……ちょっ……さん、ぞ」


なまえの首元を支えていた三蔵の手は、ドレスのファスナーを引き下げる。大きく覗いた背中から器用に指を這わせ、深紅のドレスはなまえの肩からするすると落ちた。


「……チッ。俺の負けだ」


上半身が露になったなまえに三蔵は思い知るのだ。滑らかな首筋に誘われるまま吸い付き、なまえに朱い華が咲いていく様を恍惚として見ている己自身に、身の程を知れとは、己自身にこそ言うべき言葉だったのだと今更ながらに思い知ったのだった。


END
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