彼女が望む明後日

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思いのほか抵抗無く言えてしまった『失恋』という事実に、目の前の二人は動きを止めた。


「冗談だろ?」


口を開けたままのアスマは俺となまえを交互に見やる。そして紅はと言うと、動きは止めたまま真っ青になったと思えば、次の瞬間には真っ赤な顔をしていた。


「……なまえ、本当なの?」


腹の底から搾り出したような紅の声になまえが苦笑しながら頷くと、紅は眉間に深い皺を刻みながら立ち上がった。


「カカシ、悪いけど今日は私がなまえを送っていくわ」

「え、わっ……紅!?」


なまえの腕を掴み上げ、ズルズルと引きずるようにして、紅はなまえを強引に店から連れ出して行ってしまった。


「紅のやつ、ありゃ相当だな」

「本当。気の毒だね」

「お前もな」


この調子のアスマとすっかり温くなったビールでは、とても気持ち良く酔えそうにない俺は、出てきた溜め息を天井に向ける。


「本当にお前が振られたのか?」

「だから何回も言ってるじゃない」

「……何でそうなるのかさっぱり解らん」


納得出来ないといった顔のアスマだが、それに輪を掛けて納得いかない俺と、妙に納得している俺が居た。


「あいつは明日より明後日が欲しいんだって」

「……は?」


唐突に口にした言葉に訝しみながら、アスマは険しい表情で先を促す。


「明日が幸せな恋人同士でも明後日もそうだとは限らない。だったら幼なじみとして、より確かな明後日がいいんだって」

「……おいおい、自覚ありかよ。タチ悪ぃな」


自覚があるだけに風向きを変えるのは難しい。何れかを壊さずして成しえないのだから、こちらも相当な覚悟が必要だ。


「あいつを失う位ならこのままでいい。……そう割り切れたらいいんだけどね」


言い訳だと言われればそれまでだけど、目の前に居るのが俺となまえをよく知っているアスマだからか、そんな弱音も黙って聞いてくれている。


「大人なんだか子供なんだか。昔からは考えられねぇが、里を離れてるうちにそういう考えに至ったって訳か……」


そう言って気怠るそうに煙を吐き出したアスマが先端の灰を落としながら呟く。


「取りようによっては最高の告白だな」


そうなんだ。だからこそこのまま甘えてしまいたくなるけど、なまえが里に戻り、近くに居るようになった今では、これから先も抑えられる自信は無い。


欲張りでも何れの関係も壊したくはない。けれど、この手は彼女の温もりに触れたがるんだ。

彼女の望む明後日を覆い尽くしてしまいそうな程、俺の気持ちが溢れ出してきそうだ。

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