憶に縋る
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「言葉を変えましょう。あなたにとって、彼女はただの幼馴染みで在り続けられますか?」
真っ直ぐぶつかる視線を受け止めながら、俺は迷いなく答える。
「彼女がそう在りたいのなら」
その言葉が、今までの全ての感情の上で成り立っていることに、果たして目の前の男は気付くだろうか。今の関係を壊したくない自分と、もう二度と戻る術がないほどに壊してしまいたい自分との鬩ぎ合い。しかしそれも、彼女が居るということに比べれば、小石にも満たないちっぽけな願いだ。
綺麗事だろうがなんだろうが知ったことか。例え心も距離も離れていても、彼女が存在していること以外に必要なことなど、俺にとっては無いのだから。
そんな想いを乗せた言葉を、ユユはどう受け取ったのか、苛立った様子で息を吐いた。
「……またそれですか?……僕が遠回し過ぎたんですかね?」
もう一度息を吐き、苛立ちを隠すでもなくユユは続ける。
「彼女がそう在りたいのなら。それがカカシさんの答えなら、この質問にも同じ答えなのでしょうか?」
「彼女があなたを選ばなくても許せますか?」
夜の空は雲で覆われ、真っ暗な闇が広がっている。自分自身の揺らぎを遮ってくれるかのようなその闇が、今の俺にはひどく有り難かった。
「任務であろうと、彼女が望めばいいんですね?」
決して自分本意ではない。彼女の望む先に居る俺が、俺の在るべき姿なのだというのは、立ち行かない想いの逃げ道でしかないと、あの男の問いで突き付けられたと同時に、俺の根底が揺るがされた。
「彼女が望めば、あなたは必要とされなくてもいいんですね?」
『幼馴染みとしても。……男としても』
暗く闇い視界の先に、もう暗部の男の姿は無かった。絶対的な安心感が根こそぎ削がれ、握りしめた拳が悲鳴を上げる。
一体何の話をしているんだ。一体出口は何処なんだ。自分の中で完結させようとしてもがいたというのに、一瞬で何もかもがバラバラになってしまった。
彼女が俺を必要としない、それを彼女が望むのなら俺はどうするのだろうか。音もなく立ち去った暗部の男は、俺にどうさせたいのか。
過去に縋るばかりの俺は、今に置いて行かれてしまったことに目を逸らし、胡座をかいているだけなんだ。それでも俺は、諦められない。俺は、それでいいとさえ思ってしまうんだ。
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