憶に縋る
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彼女の部屋を出て、ちらりとあの暗部に視線を投げた。様々な記憶を惜し気もなく思い出させてくれるあの獣面と、俺の知らない彼女を知るユユという男に、視線は自然と鋭くなってしまう。
しかしそれも何のその。ユユという暗部は音もなく俺の前に姿を曝し、その獣面までもを取り去った。そして、あろうことか、俺の視線などまるで気にもとめず、平然と笑顔を浮かべてきたのだ。
「先程は急な任務にもかかわらず、ご協力いただきありがとうございました」
闇夜に溶け合いそうな漆黒の髪、形のよい榛色の大きな瞳で、ユユという暗部はそう言いながら頭を下げてきた。
「……任務なら当然だ。礼なら要らない」
俺も忍だということはわかりきっているだろうに、皮肉ともとれるようなことを平然と告げるこの男に、腹の底がすーっと冷えていくのがわかる。
しかし、そんな俺を見透かすでもなく嫌悪感を示すでもなく、ただ飄々とした笑顔が癪に障った。
「それで?それだけを言うためにここに居る訳じゃないんだろ?」
「ええ、もちろんです」
風が吹く。
静かで穏やかな風は、意識を向けなければ気付かないかもしれない。当たり前のようでいて常に流動しているというのに、目を向けなければ気にもとめない。それは、今までの自分にとって無害であったからであって、この先もそうであると疑いすらしないのだか、一度でも牙を向けられたらどうなるだろうか。
「あなたは、彼女を忍として見続けられますか?」
今までのおどけたような空気を一変させ、僅かな迷いも受け付けないといった様のユユという男に、この話の主導権は完全に握られていた。
こちらからは何も探らせない。
いや、少しでも首を突っ込んでくれるなという、牽制と呼ぶには生易しいほどの拒絶。
「彼女が忍で在り続けたいと言うなら、それについて俺は何も言うことは無い」
「……模範解答過ぎてがっかりです」
「じゃどういった答えを期待した?」
俺がそう問えば、ユユは眉を寄せて唇を噛んだ。
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