彼女を下さい

(2/4)
少し格式の高い料亭の一室。カカシはそこで、なまえの父であり、罪人収容所の総責任者でもある男と対面していた。琥珀色のグラスの中の大きな氷が時間と共に溶けていき、グラスを揺らすたびにカランという音が響く中、なまえの父である"サトリ"はカカシを前にして驚愕の表情を露にした。


「……うちの娘はなんてバカなんだ」


驚きと呆れ、そこに少しの怒りを滲ませたなまえの父サトリは、グラスの中身を一気に煽る。額に手を当てて溜め息をつき、目の前に居るカカシに酷く申し訳ないといった顔を晒すと、再び深く息を吐いた。


「嬉しい知らせを期待していたんだが、まさかそんな事になっていたとは……」


なまえの囮任務の一件で里を訪れていたサトリは、業務連絡以外には何の知らせもよこさないなまえよりも、亡き親友の息子であるカカシから何か嬉しい知らせは無いかと期待しつつ酒の席を囲んでいたが、自分の娘が酷く不甲斐ないと、早々に肩を落とす羽目になってしまった。


「親父さん、そんなに気を落とさないでください。なまえに考えあっての事だってわかってますから」

「カカシくん、私は気が気でないよ……」


罪人収容所の総責任者であるサトリは、身体自体はそれほど大きくは無いものの、服の上からでも判る鍛え上げられた肉体と精悍な顔を持ち、任務や敵の前では一切の情も躊躇いもない冷静さを持った忍である。しかし、今カカシの前に居るこの男は、普段の姿からは想像もつかないほど弱々しく、自分の娘の不甲斐なさを嘆く一人の父親だった。


この姿を知る者は少ない。カカシは数少ないこの姿を知る者の一人として、こんな時は彼を忍としてではなく、なまえの父親として"親父さん"と呼ぶのだ。


「親父さん、なまえは大丈夫ですよ」

「……本当にそう思うか?」


本人は至って真面目なのだろうが、半分当事者であるカカシは苦笑する。ただ一心に娘を心配するサトリの心を晴らすことは、相当難しいと思ったからだ。


「なまえには信頼する暗部もついているみたいですし、里の仲間とも上手くやっていますから」


カカシがそう伝えると、サトリは不安そうな顔でカカシをじっと見つめる。何故そんな目を向けられるのか判らないカカシが困っていると、サトリは意を決したとばかりに口を開いた。


「……カカシくんは?」

「俺……ですか?」

「そう。……私はね、カカシくんにも幸せになって欲しいんだよ」


語尾は次第に弱々しくなり、サトリはグラスに視線を落として切なそうに笑った。娘と親友の息子への深い愛情を滲ませながら、サトリは己の心情を紡いでいった。

.
- 66 -

ListTopMain

>>Index