彼女を下さい

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娘は昔からカカシくんだけだった。何をするのも一緒じゃなければ嫌だと駄々を捏ねたり、身の程を知らずにカカシくんの真似ばかりして追い掛けまわしていた。


そんなサトリの昔話は、今でこそ微笑ましく愛しいものであるが、当時のカカシには疎ましく思う時期もあった。年頃の少年が少女に四六時中纏わりつかれればそれも致し方無いことなのだが、カカシは決して拒絶しようとは思わなかったのだ。疎ましいのに全く拒絶しないというのは、一見矛盾しているように見えるが、カカシにとっては理にかなったことだった。


「カカシくんだって同年代の子と遊びたかっただろうに、うちの娘ときたら……」


忍である父を亡くしてから、なまえが追い掛けてくるたびに、カカシはそこに自分の居場所を感じるようになった。生涯独りだと思った自分が、なまえに必要とされることによって、誰かと一緒に居てもいいんだと教えられているような気になれたのだ。仕方ないと口ではいいつつも、なまえの隣にある確かな自分の居場所というものの存在が、カカシには嬉しくて嬉しくて仕方なかった。


「あの時も今も、いい思い出ですよ。俺からしてみれば、ですけど」

「……あの娘は良くも悪くもカカシくん無しでは生きてはいけない。だからこそ私は心配なんだよ」


思い出話から唐突に現実へと引き戻されたカカシだったが、カカシにはサトリの心配が何を示しているのか判断がつかず、サトリが言葉を発するのを待っていた。


「なまえがそうだからと言って、カカシくんにもそれを求めるのはそろそろ潮時だと思っているんだ」

「何を言うんですか」


少し強めに返すと、サトリは些か瞠目した。そして、諭すような窘めるような目でカカシを真っ直ぐに見やり、ふと目を閉じて息を吐く。それからゆっくりとグラスに手を伸ばし、氷を鳴らしながら喉を潤した。


「君もいい歳だ。こんな状況にあると知りながら、いつまでもあの娘の面倒を見てもらう訳にはいかない」

「待ってください。俺はそんなつもりは」

「カカシくん、実はね、なまえを連れて行こうと思っているんだ」


それまでとは違う鋭さがそこにあった。娘を思う父親の顔から、一気に罪人収容所の総責任者としての顔へと様変わりしたサトリに、カカシの背筋がピンと張る。それは試そうとしている訳では無く、何かしらの覚悟からの現れだと感じたカカシは、背筋だけではなく表情までもを引き締め、こちらも生半可な覚悟は持ち合わせていないと応戦する構えを見せた。


「それは、なまえがそうしたいと言ったからですか?サトリさん」

「そうだ。はっきりとそう口にした」

「……そうですか。サトリさんはなまえを連れて行くつもりなんですか?」

「……あぁ」

「では、親父さんは?」


カカシの質しにサトリは言葉を飲んだ。情も無く躊躇いも無い総責任者として言うのは簡単でも、娘を持つ一人の父親としてそれを言おうとするも、その言葉の重さについ躊躇いが生まれてしまったのだ。

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