彼女を下さい

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「大丈夫ですよ、親父さん。俺、昔からなまえの口から出た言葉は半分しか信じない事にしているんです。……親父さんと同じように」

「……はぁ。やっぱりか」


今までの緊張が忽ち解けていき、どちらからともなく苦笑いが零れる。お互いの立場は違えど、散々振り回された男同士には、確かに通じるものがあったのだ。


「最初に言いましたよね。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、と」

「あぁ」

「その言葉、そっくりそのまま収めてくれませんか?」

「……いいのか?」


サトリの不安を掻き消すようにカカシは頷く。まるでそれが当たり前だとばかりに簡単に頷くものだから、サトリは余計に不安になるが、カカシはそれでも力強く頷いたのだ。なにしろ昨日の今日の話ではないのだ。今まで散々思い悩み続けた結果なのだ。カカシにとって、なまえという存在はそれほど大きなものなのだと伝えていた。


「親父さん、お願いがあります」

「何だい?」

「……この先、なまえが俺をどう思っても、俺の気持ちは今も昔も変わりません」


そこまで言うとカカシは居住まいを正し、サトリに真っ正面から向き合った。それを見たサトリもまた、より一層表情を引き締めた。


「俺に、なまえさんを下さい」


しんと水を打ったような部屋に、男二人が向かい合って座している。話の当事者であるなまえが居ない裏で、男二人によってこんな会話が繰り広げられているとは俄には信じられないであろう。しかし、この男達はそれをやって退けるのだ。

当事者であるなまえが、予想の遥か向こうを行き過ぎていることを憂う父親と、当事者であるなまえが、想像よりもずっと遠くばかり見ていることで振り回されているカカシは、やはり立場は違えど通じているのだ。


「カカシくんはそれでいいのかい?」

「はい」

「これから新しい出会いがあるかもしれないのに、それでもいいのかい?」

「はい」

「あの娘があのままでも、かい?」

「はい」


視線を合わせたままサトリは何度も念を押す。それは、娘はもちろん、この亡き親友の息子であるカカシを思ってのことだった。

小さな頃から見てきたカカシを、実の娘と同じように思い、見守ってきたのだ。そのカカシが、実の娘によって傷付くようなことがあれば、親友に合わせる顔が無い。実際、今ですら非常に心苦しいのだから、これ以上はカカシには酷ではないかと思っていたが、サトリが思うよりもカカシの覚悟は固かったようだ。


「……手のかかる娘で申し訳ない」


不安は尽きないが、サトリはカカシ以外になまえを任せるなど、到底考えられることでは無かった。
忍としても申し分の無い上に、幼い頃から人となりを知る、この"はたけ カカシ"以上の男は、世界広しと言えど何処を探しても居ないのだ。本来ならこちらから頭を下げてお願いしたい所だというのに、このカカシという男は、昔の馴れ合いの延長線ではなく、誠実になまえを一人の女性としても見てくれているのだ。


「カカシくん、ありがとう。これからもなまえを……よろしく頼むよ」

「……ありがとうございます、親父さん」


氷が溶けきったグラスを掲げ軽く合わせると、お互いそれを一息に流し込む。グラスをテーブルに置いて目を合わせれば、何処と無く気恥ずかしさが込み上げてくるが、サトリは新しいボトルをカカシに差し出し、『本当は、お義父さんって早く呼んで欲しいんだ』とカカシにおどけて笑ってみせた。

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