規格外理論への溜め息
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下忍と言えど任務が途切れる事はない。大事なペットの捜索や尋ね人や危険区域の調査など、下忍といえど請け負う任務はたくさんある。もちろん護衛や敵情視察などの任務もあるが、それに危険が伴うとあれば余程人手不足でも無い限り下忍の出番は殆ど無いのだ。
本来囮任務など下忍の手に負えるものではない。それでもそれをやってのける下忍は、なまえとナルトくらいだろう。しかし、今まで任務を成功させてきたからと言って、これからもそうだとは限らない。自分の実力で任務を成功させる"運"というものが存在することは、カカシ自身が痛いほど知っていた。
病室のベッドの上で熱に絆されたなまえに目をやり、いつもより熱を持った彼女の手を握ったカカシは、寝ているとも魘されてるとも見えるなまえを憂う。
「だから危険だって言ったでしょーよ」
そう言葉を漏らしたカカシは、それがなんとも矛盾していると判っていながらも、そう口にせずにはいられなかったのだ。
忍に危険だからなどと言っても無意味な事で、危険だからと他の忍にその危険な任務を替わってもらうなど有り得ない。与えられた任務は絶対だ。それは忍であるが為に、忍であり続けるが為に、忍として生きると同時に深く刻まれるものなのだ。なまえという存在もまた、それを崩してしまう程にカカシの中に深く深く刻まれているのだ。
トントンと病室をノックした音がした後、足音も立てずあの暗部のユユが入ってきた。明かりが落とされた病室に、気配も匂いも無く入ってきたユユという男に、カカシは静かに視線を投げた。
「今回の任務は失敗におわりました」
重苦しい空気の中をユユの言葉が突き刺さる。この任務に関して部外者であるカカシにも聞かせるように、ユユは獣面越しに鋭い視線を携え、怒りや侮蔑、嘲笑ともとれるような声色で歩み寄った。
「僕は言ったはずだ。その中途半端さが仇になると、何度も何度も言ったはずだ」
任務への責任とは、それに携わる全ての人の命も含まれる。私情によりそれを脅かすなど忍にとって言語道断。最も致命的なことだとユユは暗に伝えているのだ。毒に侵されたなまえと、そこに寄り添うカカシに、暗部であるユユははっきりと告げた。
「お互いをお互いの価値観で縛るというならそれはそれで結構。しかし、任務に支障が出るほど忍として不必要なものを、いつまで持ち続けるのですか?」
甘く見ていたつもりは無かった。しかし、その思いこそが甘さだったのだと、なまえが横たわる姿を見てカカシは痛感する。
簡単にはできないが、苦しくても突き放そうとすれば出来たはずだった。
彼女が付き合えないと言ったあの日に。危険な囮任務を任されてきたと知ったあの日に。この暗部のユユに問いかけられたあの日に。彼女の親父さんと話したあの日に。
それには相当な痛みが伴うが、忍としてのなまえを思えばそれが最善だったのかもしれない。この暗部のユユも、最初からこういう事態を危惧していたからこそカカシにあんな事を言ってのけたのだ。
「……ユユ……ごめん……」
毒が回った身体でなまえは瞼を揺らす。魘されながらも話は聞こえていたようで、弱々しくも意識はしっかりしているようだ。そんななまえに安堵するも、この重苦しい空気はいまだ健在で、今回の任務の失敗が如何に大きな痛手だったか察するのは容易い。
「幸いにして今回は助かったけれど、そうではなかった場合、次、は無いんです」
重くのし掛かる言葉になまえは唇を噛む。取り返しのつかない失敗をしてしまったと、なまえは心と身体の痛みをきつく噛み締めていた。
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