規格外理論への溜め息

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とある組織を一網打尽にするべく、長年に渡ってその機会を狙っていた。その組織はなまえの父であるサトリによって捕らえられている男が所属していた組織で、様々な国の抜け忍や罪人となった忍で構成され、各国で戦の種を撒き散らして争わせ、戦いの火が消えた頃に現れては敗戦国はもちろん、戦によって疲弊した勝戦国までもを落としていく、謂わば禿鷹のような組織だった。

サトリ達によりある程度の戦力を削いだものの完全に制圧したとは言えず、その組織を壊滅に追い込むべく長年に渡って囲い込みをしていて、なまえもまた、囮任務をしつつその任務の一端を担っていたのだが、ある時願ってもない機会がやって来たのだ。



「先ほど接触してきたのがあの組織の一員だとすると、やはり狙いは収容所の解体でしょうか」

「木の葉に喧嘩を売るよりも現実的な所が狡猾だね」

「しかし、あの収容所だけは突破出来まい。私も、お前も、死んだとしても不落である事に変わりはない」

「……不吉な事を言わないでくださいよ、サトリさん」


罪人収容所の総責任者であるサトリとその娘であるなまえと顔を付き合わせていた暗部のユユは、この一大任務を前に不安を掻き消せないでいた。それは、近々その組織が収容所を狙うという情報を得たことはもちろん、その組織の人間がなまえに接触を図って来たからだ。

収容所が目的なら奇襲でもかけてきそうな所だが、正体を隠してなまえに接触してきた目的が解らない。なまえを狙っての事か、それともこれも陽動の内なのか。本来の目的がはっきりしないまま迎え撃つとなると、相手の戦力が未知数なだけに、流石のユユも不安が拭えずにいた。


「相手がどう出てくるか定かではない。準備だけは怠るな。いいな?」

「はい」


それからすぐの事だった。組織の人間が再度なまえに接触し、その場で戦闘となったのだ。なまえはいつもの通り薄くチャクラを纏い、下級の水遁の術を使って辺りに水溜まりを作っていく。相手は下級の術だと高を括りそれを弾く。しかし、その度に水飛沫を浴びているのを見て、なまえはユユに視線を送った。


『そろそろ仕上げる』

『了解』


それを合図にユユは他の暗部に指示を出し、なまえが水遁の術で張り巡らせた睡眠薬入りの水を蒸発、拡散する瞬間を待った。

相手が元忍と言えど、なまえは確かに強く、致命傷を避けながらいつも通りの戦闘スタイルで戦っている。しかし、ユユはそれでも不安を隠せなかった。数年に渡り追っていた組織が、こんなに簡単にいくものだろうか。


そう考えながら戦況を見守っていると、所々で水蒸気爆発が起こり、相手の男がバタリと倒れた───と思った本の一瞬の出来事だった。相手の男がニヤリと笑い印を結ぶ。それは目で追うのがやっとの程の早業で、目の前の男があっという間に変化の術で姿を変えた。そこでなまえが遅れを取ったことは明白だった。


「えっ……」


なまえがそう漏らした時に、ユユはこの任務が失敗に終わったと拳を強く握り締めた。なまえの動揺が瞬く間に周囲に待機していた暗部の面々に伝わる。それと同時に、この瞬間を待っていたであろう組織の男は、その隙を見逃してくれるほど甘い男ではなかった。


「……っ!」


声にならない声を漏らし、なまえの身体が傾いた。なまえが気付いた時にはもう手遅れだったのだ。甘さや驕りなんてものではなく、忍にあるまじき心の隙をつかれたのだ。

無様に地面に膝を付き、目の前にいる男を見上げるなまえは、脇腹に刺されたクナイからの痛みに顔を歪める。毒が塗られているのだろう。手足も痺れ、意識が朦朧としてくるなまえの見上げる先には、いつも飄々としているのにいつまで経っても追い付けない、なまえにとって最も大切な人の顔をして、見たことも無い程に歪んだ笑みを浮かべて見下ろしている男がいた。


そんな状況下で、ユユはこの任務に唇を噛み締める。この任務では、火影直轄である暗部はターゲットの前に姿を現す事が出来ないのだ。迂闊に暗部の存在を知らせれば警戒は強まり、組織壊滅が更に遠退いてしまう。任務の最優先事項はあくまでも組織壊滅だ。この場に居る者はそれを理解した上で任務に挑んでいるのだ。なまえが危機に落ちようと、ターゲットの前では姿を晒してはならない。


「……だから言ったんだ……」


ユユは血が滲むほど唇を噛む。長年一緒に任務をしてきたなまえへの情を押さえ付けながら、見守ることしか出来ない現状にユユが息を潜めていると、男はなまえに何かを呟いて姿を消した。


『追跡。深追いはするな』


ユユはそう指示を飛ばしてなまえの元へ駆け付け、任務失敗の重さを受け止めたのだ。

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