絶対的存在

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男は少しの間俯いていたが、瞬きをひとつ落として顔を引き締めた。カカシそのものの姿でなまえを見つめ、硝子瓶を弄ぶ。


「この瓶の中身は意識を衰弱させる毒がはいってる」


そう言ってなまえの反応を窺う男の感情は頑なに隠され、相手の内にある切り札、それを力も何もかも劣るなまえが探るのは困難を極めていた。それでも、その瓶の中身が男の言う通りのものならば、なまえの脅威になるものでは無い。収容所を突破するには、なまえがなまえ自身で在らねばならないのだから。


「そんな物を飲ませてどうするの?」

「……言ったよね?これ、最終手段だ、って」


男がニヤリと笑ったのを見て、なまえは薄気味悪さを感じた。目的を達成するためにはどんな事でも平気でする。そんな目をして男が笑ったからだ。


「収容所の突破。それだけが俺達の目的だと思ってるならおめでたいね」

「……どういうこと?」

「あれ、何か動揺してるみたいだけど大丈夫?」


いくら忍として表情に出さない訓練をしていても、この男はなまえの一瞬の変化を見逃さなかった。なまえが咄嗟に取り繕うも時既に遅し。男は勝ち誇ったような顔で低い笑い声を上げた。

どうすれば優位に立てるのか。どうすればこの状況を打開できるのか。本来なら絶対に気付かないであろう少しの心の揺れすらも掬い取ってしまうこの男には、忍としての力量が全くと言っていいほど及ばないと痛感させられ、なまえは悔しさに唇を噛んだ。


「あの収容所を"開けられる"のは、今現在この世で二人だけしかいないのは判ってる。もちろん、詳しい方法は判らないけどね。そこで質問があるんだけど聞いてもいい?」

「……何?」

「はたけカカシとはどこまでいってんの?」

「……はっ?」

「すっごい動揺してる。忍としてまだまだじゃない?話し相手としては面白いけど」


思わずカッとなってしまったなまえは俯いて感情を隠そうとしたが、男には通用しなかったようだ。その証拠に、すぐそばでくつくつと笑う声が聞こえる。感情を隠すのが忍の常ならば、笑うこの男も大概ではないかと思うも、遊ばれているとわかっているなまえは沈黙を選んだ。


「じゃ、そろそろ行こうか」





***



「カカシさん、準備はいいですか?」

「もちろん」


準備などいつでも出来ているといった顔でカカシはユユに視線を合わせた。はたけカカシに迷いは無い。むしろ、どこか吹っ切れたような顔を口布の隙間から覗かせている。それを見たユユは、獣面の内側ですーっと息を吐いて力を込める。

さあ、僕も正念場だ。なまえを救出し、全てを片付ける。サトリさんから直々に承った任務は、全てが片付いたら速やかに遂行する。もう、容赦はしない。


雨足が強まる中、ユユはカカシに合図を送ると同時に飛び出した。背後に感じるカカシの気配はなんとも心強い。これは決して不安からでも油断しているからでもない。

ユユは確信していたのだ。

はたけカカシは、なまえの前では絶対的であると、ユユは確信していたのだ。


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