絶対的存在
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身体の痺れが取れないまま、なまえは目の前の男を睨み上げた。起き上がることも出来ない無様な格好でも、気持ちだけは何があっても負けないと睨んだ。
「じゃ、私は次の準備してくるから後は任せたよ」
「りょーかい。お前も気を付けて」
女が出て行くのを目で追うと、なまえの視界が遮られた。すっと首の後ろに手を差し入れ、男がなまえの身体を起こしたからだ。見れば見るほど外見も声もカカシそのものだが、だからこそなまえにははっきりと判る。声のトーンも間の取り方も同じだが、所作が微妙に違うのだ。
パッと見は騙せても、細かく見ればその違いが判る。もちろんそれは、長い付き合いだからだけでは無く、なまえだからこそ判るちょっとした事だ。指先や首の傾き、それに付随する視線の動き。それはカカシであってカカシではないと、なまえにははっきりと断言できた。
「触らないで」
「んー、やっぱり君には区別がついちゃう?」
睨むことで肯定すると、男はポーチから硝子瓶を取り出す。掌に乗るほどの大きさの瓶を数回振り、なまえににっこりと笑って見せた。
「一度目は不意をつかれて動揺しただけかぁ。うーん、ちょっとショックだなー」
そう言いながら男は口布を下げる。そこで露になった顔に喉の奥で息を飲んだ。
普段から頑なに素顔を晒さないのは、カカシの忍としての信条のひとつである。なまえですら、完全プライベートで、しかも完全なる密室内でしかカカシの素顔を見ることは無い。それなのに、何故この男はカカシの素顔を知っているのか。
「……どういう、こと?」
「秘密」
男はおどけた口調だが目には一切の感情を乗せず、硝子瓶を玩ぶ。何の液体が入っているかは不明だが、なまえにとって良い物では無いことは確かだ。例え無害な物だったとしても、なまえの注意をひくには十分な代物で、身体の自由がきかない状態では尚更なまえは気を抜けない。
何とかしなければ、となまえは身体を捩ってみるも、痺れは強く、チャクラを練ることも出来なかった。それでもなまえは知っているのだ。この男は自分を絶対に殺さない。いや、殺せないのだと、なまえは判っているのだ。
「この後、わたしはどうすればいいの?」
「言ったら素直に従ってくれんの?」
「まぁ、それは無理でしょうね」
「だよね」
小瓶を見つめる男が一瞬だけ哀色の瞳を見せる。身体の自由を奪われているとは言え、そんな無防備さを見逃すほどなまえは未熟者ではないし、無意識であろうが故意であろうが、そんな一瞬に気付いたことを教えるような義理もない。
「それ、わたしに飲ませるの?」
「……最終的にはね」
「最終的?」
男はふと息を吐き、なまえと真っ直ぐに視線を合わせた。何もかもを掠め取ろうとするかのような男の瞳は仄暗い。そんな男を見て、力こそ及ばないものの、相手も万全では無いとなまえは確信した。
「わたしがわたしでなければ、あなたの目的は達成出来ない」
あえて意味深な言い回しで男を揺さぶる。姿形やカカシの素顔は知っていても、男は知りようも無かったはずだ。あの収容所の最後の機巧──からくり──だけは、絶対に。
その証拠に、男はぐっと声にならない音を漏らした。
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