※オリーブ
エバンス家には三人の娘がいる。

長女のペチュニアは神経質だが優しく、
次女のカトレアは病気がちだが聡く、
三女のリリーは可笑しな力を持つが一際美しい。

三者三葉の彼女たちは、お互いに「チュニー」「カティ」「リリー」と呼び合って仲良く暮らしていた。



◇◇



私は、試着室でぼやぼやと洋服を着る。今日は家族でショッピングに来ていた。カーテンを開けると、ちょうどリリーも顔を出したところだった。

「リリーは可愛いからなんでも似合うわ」
「こっちも良いんじゃないか?」
「いいわね」

パパとママがこぞってリリーに服を宛がう。素材が良いと着せ替えも楽しいよね。うんうん。リリーは何を着てもパッと華やかに着こなす。無地のTシャツとジーパンだってリリーが着ると決まるのだ。
私は双子だけれど、リリーとあまり似ていない。私はちょっと丸顔っていうか……面長の姉とも似てなくて、強いていうなら姉と妹を足して二で割って丸顔にした感じかな。私達三姉妹はてんでバラバラな容姿だった。

リリーは可愛い。
けど、今日はチュニーの小学校の卒業祝いも兼ねてるのに、パパもママもリリーに夢中になりすぎだよ! チュニーがしょんぼりしている。

「ほんと。リリーに似合ってる」

チュニーは家族と一緒になってリリーを褒めた。リリーがえへへと笑う。チュニーは拗ねないどころか家族の雰囲気を壊さない良いお姉さんだ。優しいなって思う。私はにっこり笑ってチュニーを呼んだ。

「チュニーも色んなの似合うよ。金髪だから何色を着てもキレイだもん」

チュニーの見事なブロンドは私の憧れだ。
彼女はぱっと私を見て、わざと澄まし顔をした。手ぐしで髪を整えているチュニーの視線がちらりと鏡に向かった。

「そう? たしかに合わせやすいかも」
「明るい色が合って羨ましー。今の赤も良いけどピンクも良いと思うな」
「ピンクのワンピース気になってたの」
「やっぱり? 試着に持ってくるときに迷ってたでしょー」

最近は、大柄プリントのタイトなワンピースがブームだ。すらっとしたチュニーに似合う。私はカッコイイ服は着られている感じになってしまうからブームから逃げていた。
私達がきゃっきゃ話していると、パパが「ん?」と気付いた。

「なんだ、チュニー着たいのがあるのか。取ってきてやる。カティも他に取ってきてほしいのあるか?」
「うーん。どうしよリリー、このスカートに合うトップスって他になんだと思う?」

私はリリーに丸投げした。何が似合うかは双子だけあってリリーが一番熟知しているのだ。今はレモンイエローのフレアスカートに、白いパーカー合わせている。
リリーは元気良く「なんでも!」と答えた。な、なんでもは困る。あえて言うなら?と聞いたら「ボーダーTシャツとデニムシャツか白のサマーセーター」と教えてくれた。ついでに「カティには黄緑色のワンピースも良いと思う」と提案してくれる。
私はそれをパパに頼んで持ってきてもらって試着した。気に入ったので、結局リリーのおすすめの服を買うことにした。
さあ次はお昼ご飯だ。





お店で昼食を食べている時、リリーが「トイレに行く」と言った。緑の瞳と目が合ったので「私も!」と言って立ち上がった。
角を曲がってテーブルが見えなくなった時、リリーが含み笑いをした。

「どうしたの?」
「チュニーに秘密で卒業祝いのプレゼントを買おうと思うの」

 私はすぐさま「名案!」と頷く。
「なににするか決めてる?」
「さっきかわいいヘアアクセサリーを見つけたの。カティも見てみて」
「おっけー」
「じゃあ……」

 「レッツゴー」と私たちは小声で囁いた。こっそりお店を抜け出して、小走りで売り場に行く。あんまり遅いとママ達に気づかれちゃう。戻ったら、並んでたのとお腹が痛かったと言おう。
 売り場のアクセサリーを見て、満場一致で(二人しかいないけど)水色のヘアバンドに決定する。ふたりのお小遣いから半分ずつ出してお会計。小走りでお店へ戻った。

 家に帰ってから渡すのが楽しみだ。





 家に帰ってから、私は熱っぽくなってベッドで大人しくするはめになった。
 すこし人混みにお出かけするとすぐ体調が悪くなってしまう。
 慣れっこのママがパジャマ、濡れタオルをてきぱきと用意してくれて、身体を拭くのを手伝ってくれる。今日はお風呂はなしだって。ママは私用のミニ冷蔵庫のなかにゼリーを入れて、私の枕元には砂糖水入りの水筒を入れてくれる。
 私はまだ七時なのにすっかり寝る支度を整えた。ママが汗ばんだ私の額をよしよしと撫でる。

「ママ、私はひとりでへーきだよ」
「カトレアが寝るまでいるわ」
「……チュニーの卒業祝いなのに」
「パパもリリーもいるから大丈夫」

 下の階のリビングから明るい声が聴こえてくる。そっか、と返事して私は目を閉じた。さっさと寝たフリをしちゃおう。
 一緒に苺のケーキ食べたかったなあ。
 ……なんて思ってたら、あっという間に眠くなる。お熱があるもんね……。


 近くでだれかが動いたような気がして、自分が眠っていたことに気付いた。部屋の中は真っ暗だった。喉が乾いている代わりに身体のだるさが少し減っていた。汗をかいて熱が下がったのかも。

「カティ、起こしちゃった?」

 チュニーだ。

「ん……どうしたの?」
「苺を持ってきたの」
「いちご……」
「いま食べる?」
「たべたい」
「分かった」

 チュニーはミニ冷蔵庫から苺を出して、私の唇にむにっと唇に押し付けた。口を開けて受け入れる。苺を噛むと、甘い果肉と果汁が口の中に広がってとっても美味しい。乾いていた喉も潤った。

「美味しい。ありがとう」

 チュニーがまた苺を差し出してくれたので、私はぱくっと食べる。

「カティもプレゼントありがと。リリーから貰ったわ」
「ふふ。チュニー、卒業おめでと」
「どうも」

 チュニーは全部食べさせてくれてから「歯磨きは?」と聞いてきた。う。さっきしたからダメ?

「歯ブラシとお盆とお水を持ってきてあげる」

 チュニーは生真面目に私に歯磨きをさせてから、「おやすみ」と言って出ていった。
 私は苺の美味しさにホクホクして目を閉じる。


 うとうとしつつ、熱いなあ……と夢現に思っていたら額がひんやりして気持ちよくなった。目を開けなくてもわかる。リリーだ。リリーは手をかざすだけで不思議なことが出来るのだ。いまも額になにも当たっていないのに、冷気だけが届いていた。
 リリーが静かに二段ベッドの上にあがっても、私が寝返りを打っても、おでこが冷たくて気持ち良かった。
 朝までぐっすりと眠れそう。



 −−エバンス家の三姉妹。
 姉のチュニーは几帳面で綺麗好き。気が強くて、まじめな優等生。
 ピアノが上手でスラリと長い指がうつくしく、よく通る高い声と、ピンと伸びた背筋が格好良い。妹に対しては心配性なひと。
 ブロンドと青い瞳は性格を表すように張り詰めて澄んだ色。顔はほっそりとして大人びている。

 妹のリリーはすごく可愛い。
 白雪の肌と林檎色の頬、整った鼻筋に、形の良いサクランボ色の唇。宝石のような緑の瞳。落ち着いた色のたっぷりした赤毛。
 居るだけでその場が華やぐような明るい性格で、愛嬌たっぷり。正義感が強くて頼もしい。
 ちょっと変わった特技を持っている。

 そして姉も妹もとびきり優しい子。
 私の大好きな姉妹。




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