01

「雄英高校…ヒーローになるための学校…」

きらきら輝く瞳を見せる子供たちが歩き去っていく中、ひとり、その少女は足を止め目の前の壁を見上げ立っていた。



さて、―――話は3年ほど前まで遡る。

"その日"は、いつものようにヴィランが暴れ、いつものようにヒーローに要請がかかり、いつものように捕縛される、…特に代わり映えのない日だった。

そのヴィランの個性は"召喚"。…といっても、ほんの少し離れたところにあるものしか引っ張れないような弱い個性だったが、追い詰められたヴィランは持てる力と体力をすべて使う勢いで個性を発動した。

要請されていたヒーローの一人であるイレイザーヘッドはその手を思わず伸ばしたが、時遅し、すでに発動後。"抹消"がかかることもなく、光と共に"何か"が召喚される。
呼び出したヴィランは、ほとんど意識を飛ばしながらもニヤニヤ笑って、「ヒーローを殺せ」と命じた。

構える警察。構えるヒーロー。
一体何が出てくるというのか。張り詰めた空気の中、飛び出した影は、その勢いを殺さないままに"ヴィラン"に飛び掛かった。

「もう呼ばないでって言ったよね呼ぶなって言ったよねサクラさん怒っちゃうぞって言ったよねえええ!!!」
「……は?」

へぶっと情けない声を上げて転がるヴィランを小さな足でげしげしと蹴る小さな姿。
三角の耳。ゆらりと伸びる尻尾。背中に生える白い羽。

2足歩行の羽の生えた猫が腕を組んでぱたぱたとその翼を動かし、ふんすと息を吐いたのだった。


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全くもう。
お怒りが静まったらしい猫(?)は、くるんとヒーローと警察のほうを振り返る。
その様子を見た面々は改めて構えるが…なんせ、気をそがれてやる気が出ない。

猫(?)は、「この馬鹿がすいませんでしたあああ!」とよく通る声で叫びながら勢いよく頭を下げた。

ほんとごめんなさい。ほんとすみません。ケガしてませんか、壊したやつの弁償代…ペコペコしながら猫(?)がぶつぶつと呟く。…いや保護者か。

警察としてたまたまいた塚内は、ぽりぽりと頬を掻きながら前に出る。

「あー…君は、猫…でいいのかな?」
「猫じゃないよ!エクシードって種族なんだよ!」

だからこうして喋ってるのも飛べるのも"個性"じゃないからね!
何か聞く前に、猫もどきが答えを言った。…代わりに色々知らない単語が増えたが。にこにこ笑う猫もどきが楽しそうにくるくると使う塚内の周りを飛び回る姿が、妙に癒しだった。

…人はそれを現実逃避というのだけど。