一話


2052年2月1日
−オーストラリア−

今のオーストラリアには移設する予定の研究所以外の場所に人はいない。なぜなら日本に近く、被害も多くなったため人々はブラジルの支部に移動したからだ。
そんな所を私は歩く。

「ここも随分と荒れちゃってるなぁ…」

1人ふぅ、とため息をつき日本のある方向の空を見る。
赤黒い厚い雲に覆われるている遠くの空、それを見て顔を歪める。
あれがこの悲劇の元凶。あれが忌々しい世界の始まり。
誰もが思ってることを砂漠のど真ん中で考えていると、着けている無線がジジジッとなり始める。

「《こちら、ジェネシス本部のアーニャです。聞こえますか?零罪(れいざい)さん》」

無線から聞こえてきたのは優しい声の人。アーニャはロシア人の末裔で、実はロシア語を喋ってたりする。まぁパンドラ・ディメンションの影響で言葉が勝手に統一されてしまったから今はあまり使えないんだよね…
そんなこと思いながら今の状況を答える。

「うん、聞こえてる。今グレートビクトリア砂漠…だよね?…取り合えず到着した所で多分もう真ん中らへんかな」

「《流石ですね。えーっと…はい。そこに居てくれれば何台か軍の車が通るはずです。今回の任務は…》」

「転送予定地沿岸までの護衛…であってるよね?サポートよろしく」

「《はい!早速ですが信号を受信しました。識別するまでもないでしょうが…依頼者ですね。すれ違う筈なのでそこで待機してください》」


無線から聞こえてくる声の通り、少しするとまだ遠くだが何台か走行してくる車の音聞こえてくる。
確か…特殊な武器について何か重要な物と、人物を運ぶとかなんとか言ってたけど実際なんなんだろう?
まぁ関係無いからどう足掻こうと教えてもらえないだろう。
そう思いながら被っているフードを下げ、少し身嗜みを整える。
……見た目おかしくないかちょっと不安だ。鏡がないからわからないけど…

あんれこれ考えてる内に車五台が目の前で止まる。
真ん中に重要な人と物が乗ってるのだろう。
一番私に近い右側に止まった車の荷台から人が二人降りてくる。
黒い軍服に白い華の勲章持った人と青い華の勲章持った人、能力者の証である白華(びゃっか)と特殊武器を所持した一般兵の証である青華(せいか)だ。
他の車にも何人か乗っているが黄色の証を持った支援兵である黄華(おうか)と青華ばかり。
白は合計しても私ともう一人だけで有る為、二人だ。
護衛にしたら少ない気がしないでも無い。
あ、だから私が来たのかなるほど。
それ、他の人に頼んだ方がいい気もするけど仕方ないのかな?

「貴方が零罪さん?俺はジャック・スミス。見ての通り今回の護衛を任されて居る能力者っす!」

「私はルドルフ・リヴィアニスです」

「おけおけ、チャラチャラ(ジャック)とモブ男(ルドルフ)ね。こっちのこと、知ってるみたいだけど…私は零罪。ピチピチの元JK!短い間だからあんまり会話できないだろうけど、よろしく」

ちょっと決めポーズ入れてみたら一瞬間が空いたけれどそれは…うん、気にしちゃダメだ。

「ちょ!?シャラシャラとモブ男って俺たちのことっすか!?しかもピチピチって…」

「どーだと思う?」

「……どうってそのままですよね。予想より相当テンション高い人だな…」

「《中々いい線言ってると思いますが…》」


それな!だって見た目チャラい人と完全真面目君キャラだよ?正にチャラチャラとモブ男。さすがは私のオペレーター、わかってるね。と内心で頷いておく。
其の後多少からかってギャーギャーと騒がれたのはそのまま無視して…一番先頭の車の上に乗った。

「あぁ、そうだ。界魔との戦闘は?」

「お!それはっすねぇ…えーっと今回はD級沢山とE級少々っす!」

「え、数わかんないよそれ?」

「D級は25体、E級13体です。すみませんジャックは大雑把で」

笑顔で答えたのはいいけれどシャラシャラはかなり曖昧だった。
つい顔を歪めてしまったが伝わったのかモブ男が答えてくれた。
うん、助かる。

「そっかDとE含めて38か…。案外少ない方だよね?……よし、これからまた界魔が来るだろうし、私の乗ってる先頭車は通常より少し先を走って殲滅するから。あ、進む方向は変えなくていいから……絶対死なせないから先頭車に乗ってる人、あからさまに嫌そうな顔しないでよ」

「いや、危ないっすから!」

「危なくない!いいから進めよこの臆病者共」

「口悪くなった!?ぐ……わ、わかったすよー」

自分なりに正しい答えを出したつもりだったが、やっぱり引かれてしまった。
まぁ囮はどの時代も嫌なものに変わりない。
とりあえず進んでもらうためにフロントガラス越しに腹黒めな笑みを出して無理やり進んで貰う事にした。
強制ではない!そう、断じて強制ではない…と信じたい…けど無理か。
しぶしぶ戻っていくジャックとルドルフが右の車に乗車し、五台の車がほぼ同時に、かつ私の乗ってる車だけ速度を上げて走り出す。

「《早速接近反応です。界魔の出現予測、右から小規模の群生五体の接近を確認。前進方向に二十体。D級とE級でしょう》」

「了解。迎撃するよ」

携帯しているナイフを取り出し、自分の肩から手首までを勢い良く引き裂く。
鋭い痛みを伴って血が勢いよく出るがもう慣れっこ。
私の能力上仕方が無いのだ。
傷口は多少の煙を出して治癒し始め、血はそのまま落下ことなく私の手の中で収束する形で止まる。
ナイフをしまい、これで準備は万端。

さて、
D級は異能の力を持っておらず、知能も持っていない。統制が出来ており司令塔を壊さなければ新たな界魔を呼び寄せる厄介な奴ら。
対処法は司令塔となっている親玉さんは群れの中でも一番大きいもの真っ先に討伐すること。
E級は異能の力を持っておらず、知能も持っていない。単体で行動しており最も弱い…
対処法は言わずとも各個撃破。

つまり潰すべきは厄介なD級親玉さん。
右側にはチャラチャラが乗ってたし大丈夫でしょ。

「…ちゃっちゃと終わらせますかね」

こんな所でニヤリと笑う私はきっと狂っているのかもしれない……

「《全く心配なんてして居ませんが…形式として言います。ご武運を》」

その言葉を聞き流しながら私は車の走行より早く駆け出した。

界魔は総じて異形で異質で不気味で恐怖の存在。対象。
何故だかわからないが本能が先に嫌悪を示すのが特徴的だ。
そして、もしもだが界魔にやられてしまった場合は…魂と言う存在諸共消滅してしまう事となる。もれなく二度とその人は転生することもなく、本当の意味での死を味わうことになると言うことだ。
加えて界魔は特殊武器やパンドラ・ディメンションが起きた以降に授かってしまった異能を使わなければならない。
使用しないと何かの亡骸や無機物を使い、学習した状態で復活してしまう厄介なやつとして来る。
E級〜SS級で強さが分かれていてまぁE、D級は正直雑魚の域なので青華でも倒せる。
倒せなくなってくるのはC〜SS級でこちらは白華でないときつい。

オーストラリアは孤島なこともあり、例外を除いてそこまで強い界魔がいない。
そんな状況下だから白華二人でも結構贅沢なのかもしれないけど……
まぁ重要なのを運んでいるから警戒するに越したことはないかな…

「おっと、居た居た。飛行型と潜行型ってやつかな?」

ドロドロと所々泥のようになっている歪な姿で空を飛ぶ鳥、鮫のように土の上を泳ぐ界魔が複数体こちらに向かって来るが…正直こうやって悠長に会話出来る位余裕な界魔なのだ。殺られ役っていっても過言じゃないけれど、油断して戦死してしまう人もいるから油断禁物と言うべきだろう。
どれか今回の群れの親玉か見極めながら留めていた血で武器を生成して行く。

「セット。《ブラッド・ナイフ》」

血を小さいナイフの形に10個形成しているが、指一本につき一つ、細い糸のようなものが繋がっている状態。
こうしないと私の力が伝わりにくく、精度や持続力など多岐に渡ってダウンしてしまうのだ。
これが私の異能での武器で界魔に対抗するための手段。

「オォォォルァァオォ!!!」

沢山の界魔がこちらに向かって大きな叫び声にも似た声を上げるが関係ない。
群れに突っ込みながら指を動かして行く。
動かしたと同時にドスドスとなんとも言えない音をたてながら全ての界魔の眉間や動力の集合地点となる心臓のような部分に正確に当たる。

ふと一回り大きな界魔を見つけてそちらに向かう。サイズが大きいため血をまた集め、大きなナイフの形状にして上から下へ振り下ろす。

「無様に消えてよね」

「ぉぉおおおぉぉ」

唸り声をあげ、真っ二つに割れ、やがて溶ける界魔を見届けると周りの界魔を相当して行く。
余談だが一度放った血はそのまま地面へと吸われて戻ってこない。
と言うか傷自体治ってしまうので戻しようもないのではっきりいって任務はほぼほぼ貧血…なんとも迷惑な物だ……
今回は何時もより使わずにすんだけどね。

「ふぅ…アーニャ、敵の反応は?」

「《ありません。右側の敵はジャックさん達が倒してくれました。しばらくは安全そうです》」

「そっか…」

その言葉を聞いて私は肩の力を抜いた。
慣れてるし怖くはないけど人の命がかかるとやっぱり緊張しちゃうよね。

車がその場を通る頃にはもう界魔はドロドロになり、ピクリとも動くことなく消えていく。
ついでに私はまた先頭車両の上に乗る。

「すげぇ…あんなのを一瞬で…俺なんて時間かかったのに…」

「さすが噂の《紅血の魔女》ですね…」

「あれ?俺は《冷血の悪魔》って聞いてるっすけど…」

なんでだろう?なんともやめてほしい恥ずかしい名前がでた。
確かに私は能力上、血を多用して自在に動かし、一撃で仕留めることから紅血の魔女、もしくは悪魔と言う謎の厨二病っぽい名前まで着いてしまった。
まぁ他にも差別用語でもあるらしいけどそこは…ね?
ある程度、戦いで場数踏めば誰でもそうなるよこのご時世。
そうそう、なるなる。

こうして、悶々として居る間にも時間は過ぎ道も過ぎて行く。

「………暇だなぁ…てかこれってさ」

私じゃなくても良かった気がするんだけど…
ロシア本部の方が派遣し過ぎて私しかいなかったのかそれとも効率良くしたかったのか…端間アーニャの策略か…
多分アーニャだね。

警戒を怠ることは決してしない。
と言っても敵が少ないので暇を持て余して鼻歌でも歌いながら時間が過ぎるのを待つ。

そんな流れ作業とかした界魔掃討を眈々と熟しているとだんだんと海が近づき、人が一人見えてくる。
少し豪華な軍服を纏った白華の人間。移動・運搬支援系能力者だ。
こういう人はジェネシスの中心を支えて居る大切な柱。
希少さで言うならば断然戦闘系の能力者だが支援系にはかなり能力値に差が出る。
だからこそイギリスからオーストラリアなどの長距離となってくるとその分だけ実力のある者になってくると言うわけだ。

ちなみに私は特にすることもないので手続きが終わるまで車の上で寝そべっていた。たまにアーニャと話しながらね。

そんな時にやってきたのは視界が行きなり真っ白になるこの感覚。
転送の兆候なのでこれにて任務達成と言うことだ。呆気ないし報酬少ないかなって思ってしまったのは秘密秘密。

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