初めてのちゅー
「もうすぐで夏休みだねぇ御幸」
「二週間後だけどな」
「七月に入ったらもう夏休み気分なの私は」
昼休み。今日も食堂でランチタイムのはずが、なぜか食堂がいつに増して混みこみだった。食堂の扉に「冷やし中華始めました」という文と今日の日付が書いてあって、こやつが原因かと私たちは瞬時に悟った。相変わらずこの学校の冷やし中華人気は半端ない。まぁなかなか美味しいけど。
てなわけで、人気の少なく涼しい木陰で私たちはひっそりとランチを食べていた。なんだか新鮮である。草むらに座ってるからいつもより私と御幸の距離が近いっていうか肩と肩が触れ合ってる。ご飯食う度にぶつかる。
「あぁーセミうるさい」
「木の下だからな」
「セミにおしっこかけられそうになったら助けてね」
「いやお前置いて逃げるわ」
「お前それでも彼氏!?」
「おう」
「ドヤ顔で返さないでほしいな」
今日も御幸は私が作ったお弁当を(美味しそうに)食べている。「あれ」すると突然、御幸が私のお弁当の中身と自分のお弁当の中身を見比べ出した。
「何?」
「この肉巻きポテト、お前のとこに入ってねえじゃん」
「うん」
「嫌いなの?」
「大好物だけど、御幸もそれ好きでしょ?」
今日肉ちょっとしかなかったんだよねー、と適当に説明すると御幸は黙りこくって何事かと思って奴の顔を見ると「二個あるし、一個やる」って言ってきた。どしたの。
「別に欲しい訳じゃないけど」
「…いいから食えよ」
なんか頑なだなぁ、と思いながらもそれじゃあお言葉に甘えてもらおうと思って御幸の弁当箱に箸を持っていこうとした瞬間、口元にふっと影が現れる。…あら。
「あーんしてくれるの」
「おー」
「カップルみたいだね」
「カップルだろ?」
「そうでした」
「ほら、あーん」
「あーん」
愛しの肉巻きポテトの香りがして、前のめりになってそれが口の中へと入ろうとしたとき、奴はやりやがった。箸を引っ込めるあの悪戯を。
「ちょっ」
何すんだバカ、と言いかけた刹那。前のめりになった体制をそのまま更にぐいっと肩から御幸に引き寄せられて、言葉を発する間もなく、御幸の顔が私の顔に近づいて、御幸の唇が、私の、唇に、
「…!?」
「ん…はいファーストキッスいただき〜」
「お、おま、ちょ、ま、待っ…」
「はっは、みずきちゃん顔真っ赤」
「…ス……は……」
「は?」
「ファースト…キス…は…」
「…」
「うわぁあああああん! 人生のファーストキスは放課後の夕焼けに染まった教室に二人きりで、そっと優しく長いキスにするって決めてたのに! バカ! このバカ御幸!」
「何だよそのいかにもロマンチストの考えそうな展開は…」
「ムードも欠片もなかった。今の。あり得ん。セミうるさいし。あり得ん」
「でも不意打ちはドキッとしただろ?」
「…まぁ」
「もう一回する?」
「する」
今度はお弁当を地面に置いて、御幸に抱きつきながら角度変えながら何回もキスした。さっきのがファーストキスなのに、なんかすんごい慣れてるカップルみたい。キスって、気持ちいい。御幸の唇が気持ちいい。
しかしそのままずっとチュッチュしていたらクラスメートに見られていて死にそうだった。それをクラス全体に言いふらされた私たち(特に私)の午後からの授業の状況は察してほしい。
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160811
御幸は策士