待ち続ける


 プリクラを撮って散々からかいからかわれ大笑いした後は、御幸のご要望であるスポーツ用品店に寄ったり、私が行きたかった新作のタピオカジュースについてきてくれたり、服を見てこれはどうやらあれはどうやらお互いの好みを暴露したり、本当にどこらへんにもいそうな高校生カップルのデートを満喫した。

 満喫するというのは心の底から楽しむっていうことで。楽しんでるというのは、その分時間も早く過ぎてしまうってことで。気が付けば時刻は15時過ぎ。夕方には御幸は寮に戻るから、どちらからともなく「帰ろっか」と手を繋ぎながらショッピングモールを後にして、御幸の家へと帰っていった。

「忘れ物ねぇかもう一回確認しろよー」
「あっ待って、櫛置き忘れてた」

 御幸も再び長い寮生活に戻るため、大きな荷物を持っている。私も、この御幸との2泊3日のお泊りデートが終わるため、御幸ほどではないけど大きな荷物を抱えていた。そして玄関に向かう前に私は振り返った。

「お世話になりました、御幸のお家…リビング…トイレ…お風呂…」
「いや、律儀か」
「御幸の部屋…御幸のベッド…」
「ベッド? みずきチャンやーらし。確かに世話になったけども」
「う、うるさい!!! 純粋な感謝だよ!!!」
「へえー?」
「おま、殴る」

 そして相変わらずの言い合いをしながら、今度こそ御幸家に「お邪魔しました」と一礼した。


 帰る間際、工場内でお仕事されていた御幸のお父さんにも「お世話になりました」と頭を下げると、彼は緩く笑って「また」と一言だけ告げた。その一言だけで、私は御幸のお父さんの優しさが伺えた気がした。

 駅まで向かう道。自分の荷物と私の大きな荷物、ふたつ分も御幸が持ってくれていた。分かっているけど、力持ちだなーって。そういうところもやっぱ好きだなってなるし。普段ちょっと頼りない顔も、でも野球してる時の真剣なかっこいい顔も好き。喋っていて軽口叩きあっている時も楽しいし、今みたいな特に会話もなく沈黙に包まれている、そんな時も居心地良いし。

「おーい」
「?」
「何でそんな神妙そうな顔してんの」
「へ」
「なに? 俺と離れんの寂しい?」

 いつもはこういう上から目線で人を小馬鹿にするみたいな聞き方されると、どうしても素直になれないし、どの口が言ってんだって反抗するけど。なんだか今日はそんな気分になれなくて、というかならなくて。
 駅の出入り口が見えてきて、もう別れはすぐそこに来ていると実感すると思わず私は口走っていた。

「うん。寂しい」
「え」
「だって、ずっと一緒にいたじゃん」
「……一生会えないみたいな言い方するなよ。学校で毎回会えるだろ」
「そういうこと言ってるんじゃないって、分かってるでしょ、ばか。御幸のばか。御幸だって寂しいくせに。余裕ぶんな馬鹿」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……はぁぁあ。お前なあ」

 御幸が足を止めた。そして私と真正面に向き合った。

「そんな可愛いこといわれたら離れ辛くなるだろ」
「御幸が寂しいっていってくれなきゃ気が済まない」
「はっはっは、なんだよそれ」

 面白そうに笑っていた御幸だけど、私の真剣な眼差しに気がつくと赤く染まった頬をぽりぽりと掻いた。

「あー、分かった。分かったよ」
「…」
「寂しい。ずっと3日間丸ごと大好きなみずきちゃんと一緒にいたんだから離れんの超寂しい」
「……」
「これでいい?」
「うん」
「なに」
「ふふふ、いいよ」
「ったく、恥ずかしいことさせてくれんな」
「想いは口にしていかないと損だよ」
「何だそれ、ははっ」

「そっかあ、御幸もさみしいよねえ」
「さみしいなあ」
「私も寮に行ってあげたいけどねえ」
「ちょっとそれ本気で思ってるだろ」
「あ、バレた?」
「おー、バレバレ」

 しんみりムードも、気が付けば通常運転に戻っていた。

 時計をちらりと確認した。もうこれ以上話を続けていたらきりがない。私の家と青道への方向は違うから改札も別々。ここで本当にしっかりとお別れだ。

「御幸、3日間ありがとう。楽しかった!」
「おー、俺も。あんがとな」

 お互い一言ずつお礼を言ってから、人気がなかったことを良いことにどちらからともなく顔を寄せ合い、ちゅっと触れ合う程度のキスをした。

「じゃあ、またな」
「うん! またね」

 背中を向けて、違う改札の方へと向かう。どんどん遠ざかっていく足音を耳にして、私は勢いよく振り返った。

「御幸!」

 改札を通り抜けようとしていた御幸は、私の声ではたと足を止めた。そして不思議そうに、けれどどこか嬉しそうな顔でこちらに振り返っていた。まるで私がもう一度呼び止めることを分かってみたいに。腹立つ。でも、そういうところも。

「超好き! 大好き! またね!」

 私はそう言い捨てて、御幸の返事など一切待たずに改札を通り抜けた。振り返って様子を見ようと思ったけど辞めた。だって、恥ずかしいんだもん。

 これからまたデートなんてしばらく出来ないだろう。御幸は更に忙しくなるから。でも、大丈夫。ずっと待ち続けていたらこんなにもひとつのデートが楽しくなるんだもんね。それが知れて良かった。ありがとう、御幸。わたし御幸と付き合えて本当に幸せだ。まあ、そこまで本人には絶対言ってやんないけど!


190421
「超好き! 大好き! またね!」

 そう言い捨てて走り去る奴の後ろ姿を見てしばらくぼーっとしてた俺は、気付いた時には「はぁぁぁぁ…」とまた大きな溜息が溢れた。

「何あいつ。可愛すぎだろ。何だよ…」

 効果抜群すぎた彼女からの言葉に一人悶々としながら、俺は名残惜しさを感じつつ渋々と改札を通り抜けたのだった。

   

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