01.
「え?明日、ビロードウェイに行く…?」
夜もとっぷりとふけた午後8時。入浴も終わり、リラックスタイムに入った時間に、久しく親しくしていた後輩から電話がかかってきた。
『そうなんです!MANKAIカンパニーって所から、家に手紙が届いてて。何だかとある舞台の招待状も入っているんですよ』
「ええ…大丈夫なの?それ。そんなよく分からない所に行って」
『それが…この劇団、昔私の父が所属していた劇団なんです』
「え?お父さんの?」
電話の相手――立花いづみ。彼女とは中学時代から先輩後輩として長い付き合いをしている。そんな彼女の父親は劇団の監督を務めていたらしい。
過去形であるのは、彼女の父親が消息不明になってしまったからである。確かもう8年も前のことになるのではなかっただろうか…。
その父が所属していた劇団から手紙が届いたと言うことは……
「もしかして、お父さんが見つかったの?」
『それは…まだ分からないんです。この手紙、送り主が父じゃなくて松川伊助って人になってて』
「松川、伊助…?その人はお父さんの知人か何か?」
『んん…私の記憶にはそんな人いなかったんですけど…』
「……やっぱり、怪しいんじゃない?」
可愛い後輩の身の危険を感じ、私は無意識に眉間に皺が寄った。彼女に何か起きたら、“後悔”なんて言葉では済まされない。ましてや、大切な肉親の名を騙った詐欺だったりなんかしたら許せない。そんな輩が出た時にはコブラツイストかけてやる。
『でも、ずっと行方が分からなかった父の足取りを掴めるチャンスかもしれないんです!その為なら…多少のリスクを負ってでも、賭けてみたいんです』
私の心配を真っ二つに断ち切るぐらい、凛とした声が電話越しから聞こえてきた。そう言われてしまえばこちらからは何も言えなくなってしまう。一度火が点いたいづみは止められない。少しの沈黙の後、私の口から小さな諦めのため息が零れた。
「…分かった。明日、午後から時間が空いてるから、私にもその劇場の地図を送っておいて」
『え?』
「大事な後輩に何かあったら大変でしょう?私も一緒に行くわ。いづみが嫌じゃなかったら、だけど」
『〜〜っ!先輩、大好き!』
「いやいや、私の方が好きだね」
私の後輩が可愛すぎて心臓が痛い!電話越しで良かった…このにやついた顔は見せられん。
兎に角、告白と言う名の了承を得ることができた。いづみと明日の予定を少し話し、明日に備えて電話を早くに切り上げる。
電話を切って数十秒後に明日向かう劇団の地図がLIMEで送られてきた。天鵞絨駅から徒歩数分で行ける距離らしい。
(いづみのお父さんの手がかりが掴めるといいけど)
明日出かける準備を済ませ、ベッドに潜り込む。
先に潜り込んでいた愛犬が私に気が付き、のそのそと動いて私の横に寄り添うように体を丸める。毛の流れに沿って体を撫でると、穏やかに目を閉じた。
天鵞絨町に久々に向かうことへの期待も相まって、この日は早くに夢の世界へと旅立つことができた。
―――明日から、私の人生が大きく変わる。そのことも知らないままに。
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夜もとっぷりとふけた午後8時。入浴も終わり、リラックスタイムに入った時間に、久しく親しくしていた後輩から電話がかかってきた。
『そうなんです!MANKAIカンパニーって所から、家に手紙が届いてて。何だかとある舞台の招待状も入っているんですよ』
「ええ…大丈夫なの?それ。そんなよく分からない所に行って」
『それが…この劇団、昔私の父が所属していた劇団なんです』
「え?お父さんの?」
電話の相手――立花いづみ。彼女とは中学時代から先輩後輩として長い付き合いをしている。そんな彼女の父親は劇団の監督を務めていたらしい。
過去形であるのは、彼女の父親が消息不明になってしまったからである。確かもう8年も前のことになるのではなかっただろうか…。
その父が所属していた劇団から手紙が届いたと言うことは……
「もしかして、お父さんが見つかったの?」
『それは…まだ分からないんです。この手紙、送り主が父じゃなくて松川伊助って人になってて』
「松川、伊助…?その人はお父さんの知人か何か?」
『んん…私の記憶にはそんな人いなかったんですけど…』
「……やっぱり、怪しいんじゃない?」
可愛い後輩の身の危険を感じ、私は無意識に眉間に皺が寄った。彼女に何か起きたら、“後悔”なんて言葉では済まされない。ましてや、大切な肉親の名を騙った詐欺だったりなんかしたら許せない。そんな輩が出た時にはコブラツイストかけてやる。
『でも、ずっと行方が分からなかった父の足取りを掴めるチャンスかもしれないんです!その為なら…多少のリスクを負ってでも、賭けてみたいんです』
私の心配を真っ二つに断ち切るぐらい、凛とした声が電話越しから聞こえてきた。そう言われてしまえばこちらからは何も言えなくなってしまう。一度火が点いたいづみは止められない。少しの沈黙の後、私の口から小さな諦めのため息が零れた。
「…分かった。明日、午後から時間が空いてるから、私にもその劇場の地図を送っておいて」
『え?』
「大事な後輩に何かあったら大変でしょう?私も一緒に行くわ。いづみが嫌じゃなかったら、だけど」
『〜〜っ!先輩、大好き!』
「いやいや、私の方が好きだね」
私の後輩が可愛すぎて心臓が痛い!電話越しで良かった…このにやついた顔は見せられん。
兎に角、告白と言う名の了承を得ることができた。いづみと明日の予定を少し話し、明日に備えて電話を早くに切り上げる。
電話を切って数十秒後に明日向かう劇団の地図がLIMEで送られてきた。天鵞絨駅から徒歩数分で行ける距離らしい。
(いづみのお父さんの手がかりが掴めるといいけど)
明日出かける準備を済ませ、ベッドに潜り込む。
先に潜り込んでいた愛犬が私に気が付き、のそのそと動いて私の横に寄り添うように体を丸める。毛の流れに沿って体を撫でると、穏やかに目を閉じた。
天鵞絨町に久々に向かうことへの期待も相まって、この日は早くに夢の世界へと旅立つことができた。
―――明日から、私の人生が大きく変わる。そのことも知らないままに。
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