「苗字氏、こちらをご存知ですかな?」
そう言って私の方にモニターを見せる。
「そ、それは!?」
私が学生時代から推していた元アイドル兼俳優、
金銭事情で買おうとは思っていなかったが、販売開始10分で売り切れたという話を聞き、買っておけばよかったか、と少し後悔していた代物だった。
「実は知人に、彼のファンがおりましてな。推しを愛する同胞のために、保存用なら譲っても構わないと言っておりまするぞ」
なんだと…?これは願ってもないチャンスなのではないか…?
「しかし、ただでお渡しする訳にもいきますまい。どうです?ここは一つ、交換条件として」
つまり、写真集が欲しければ協力しろということか…。苗字名前、32歳、どうする…?32歳にもなって物に釣られるなど…
「やります。やらせてください…!!」
人間、欲望には逆らえない。
「さすが苗字氏!そう言ってくださると思って、実はもう知人に注文済みですぞ!」
九十九くんにしてやられた感が凄い。そして、
「へえ〜、苗字さんってこういうのが好きなんだ〜。…なんか、
「お!なんだ?俺にも見せろ。…なあ〜んだ、全然似てねえじゃねえか」
「いや、確かに顔は似てないんだけどさ、雰囲気というかオーラというか…」
他人に自分の趣味をまじまじと見られるのは恥ずかしい。
「なんか、凄い複雑な気分なんだけど…」
それはこっちの台詞だ、杉浦くん。
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その後、私は八神さんの付き添いのもと、キャバ嬢御用達の店で服を買い、美容室でメイクを終えた。あらためて鏡をみると、自分が自分でないかのような錯覚に襲われる。今回のようなことがない限り、こんな格好は二度とすることはないだろう。
「うん…!綺麗だよ苗字さん!まさしく夜の蝶って感じだ」
「あ、ありがとうございます…」
褒められるとまんざらでもない気はするが、これから私はキャバ嬢として働くのだ。所謂、女社会の中に身を投じることになると思うと気が滅入る。
「じゃあ、さっそく行こうか」
八神さんに連れられ、私はネオンが眩しい夜の街へと歩き出した。