すると男は仮面を外して振り返った。やっぱり杉浦くんだ。
「事務所の近くが騒がしかったからね。念の為、駆け付けてみたら苗字さんが居たってわけ。」
正直、ナイフを持った男との実戦経験はなかったので、とても助かった。下手すると本当に死んでいたかもしれない。
「ところで、怪我はない?結構な人数居たみたいだし」
「大丈夫!今回が初めてじゃなかったし」
「本当に?気付かない間にどこかぶつけたりしてない?」
「本当に大丈夫だよ。気付かない間って、天然じゃないんだから」
私は笑いながらそう返した。
「なら、いいんだけど。あ、そうだ!せっかくだし、うちの事務所寄って行かない?」
「え!? でも、お騒がせした後でなんか申し訳ないよ」
「この件は解決したんだからいいの!それに、
九十九くんといえば、フユちゃん捜索の際にドローンを飛ばしてくれた人だ。現場には居なかったので結局、お礼を言えずじまいだったことを思い出す。確かに、タイミングとしては有りだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「そうこなくっちゃ!こっちこっち!」
彼は自然に私の手を取って、事務所へと誘導する。男性に手を引かれるなんて何年ぶりだろう、と考えながら、私は大人しく付いていった。
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「
事務所に着くと、杉浦くんは奥の方でディスプレイに向かって座っている男性に向かって、声をかけた。
「九十九くん!昨日言ってた苗字さん、連れてきたよ〜」
九十九くん、と呼ばれた男性はこちらを振り返った。
「おお〜!杉浦氏〜、お待ちしておりましたぞ。苗字氏も、ようこそいらっしゃいました!」
ボサボサの髪の毛を後ろに結びメガネをかけた、いかにもといった感じの風貌である。しかし、話した態度を見て、悪い人ではないと感じた。
「今、お茶入れるからちょっと待ってて」
「いやいや、お構いなく…」
「僕が誘ったんだから!いいから座って」
杉浦くんにそう促され、私は近くのソファに座った。九十九くんも向かいの椅子に移動してくる。
「お噂はかねがね、お聞きしておりまするぞ。なんでも此処らのゴロツキどもを一人で鉄拳制裁したとか」
「いや!鉄拳制裁だなんて…。近隣の人から依頼があって行っただけですから…」
九十九”くん”ということだから私の年下なんだろうが、彼の芝居がかった口調につられて敬語になってしまう。
「はっはっは、異人町は物騒ですからな。先ほども近くで騒ぎがありましたし。苗字氏は巻き込まれませんでしたかな?」
「ああ〜…巻き込まれたっていうか、当事者っていうか…」
「ほほう、当事者ですとな?」
すると、杉浦くんがお茶を運びながらこう言った。
「その鉄拳制裁で逆恨みにあったんだよ。ナイフまで出してさ、危ない連中だよね」