「はい、ちょうど
杉浦くんは九十九くんの隣の椅子に座った。そして、少し拗ねた様子でこう言った。
「ところで、なんで
「え?いや…なんとなく…釣られて?」
「なるほどね〜…。こう見えて彼もフランクだから、タメ口でも気にしないよ?ね、九十九くん?」
「杉浦氏のおっしゃる通りです。それに、今後はいわば仕事仲間というやつになるわけですから、もっと気楽に話してくださって構いませんぞ」
確かに敬語とタメ口を切り替えて使うのは、多少なりとも面倒だ。それに、相手が自分と仲良くしようとしてくれているのであれば、その気持ちは有り難く受け取りたい。
「じゃあ、そういうことで…」
「うんうん!」
杉浦くんは満足そうな笑みを浮かべた。
「…にしても、運命的というやつですかな?」
「え?」
「実は騒ぎがある前、杉浦氏と苗字氏の話をしておりましてな。なんでも、名刺交換を忘れたとかで」
言われてみれば確かに、私も自分の名刺を渡すのを忘れていた。
「その時にちょうど付近で騒ぎがありまして、もしかしたら名前さんかも…と言って杉浦氏は脇目も振らず出て行ってしまったのですよ」
「は、はあ…」
なんだそれは。そんなにも名刺を交換したかったのか?
「ちょ、ちょっと九十九くん!名前さん…じゃなくて、苗字さんが困ってるから!」
杉浦くんは妙に焦っている。間違えて、苗字ではなく名前を読んだからだろうか。
「なんか、呼びづらそうだから名前でいいよ!全然気にしないし」
「…え、ほんとに?」
「良かったですなあ、杉浦氏〜」
何が良かったんだろうと疑問が湧きつつも、忘れないうちに名刺を交換せねばと思った。
「あと、ごめんね、私もうっかりしちゃってて…。これ、私の名刺」
「恐れ入ります。では、私も名刺を」
「ありがとう。杉浦くんにも渡しておくね!」
「う、うん。じゃあ僕も…はい、コレ」
無事に名刺交換を終えて、私は杉浦くんに一つ気になっていたことを聞いた。
「そういえば、さっきはなんで仮面を付けてたの?」
「え?ああ〜、探偵始める前に神室町で色々やってたんだけど、その時からの癖って感じかな」
「色々って?」
「ええ〜っと…」
杉浦くんが言い淀んでいると、九十九くんが続けてこう言った。
「杉浦氏は神室町で有名な窃盗団の一味だったんですぞ」
「窃盗団…?」
何年か前、確かにネットでそんな記事を見たことがあるような気がする。そこへ慌てたように杉浦くんが口を挟んできた。
「といっても義賊だよ!悪いやつからしか盗らない。それに随分前に足洗ったからね」
「へえ〜…、凄いことやってたんだね〜」
「…引いた?」
「ううん、なんか見方が違うな〜って。私はどっちかっていうと自分のために今の仕事始めたからさ」
「自分のためって…?」
そこから自然と私の生い立ちについて語ることになった。どうして便利屋を始めたのか、もともとは何をしていたのか…。元上司のセクハラについて話をしていた時の二人の表情はとてつもなく怖かった。