「何とも、許し難い話ですな…」
あらかた自分の来歴を話し終えると、空気がどんよりと静まり返っていた。マズい、何か話題を変えなくては。
「にしても、窃盗団かあ〜!それだったら顔隠さない訳にはいかないよね〜!!イケメンだから勿体ないと思ったけど!!」
焦った私は、つい口を滑らせてしまった。
「え!??ありがとう…!」
しまった。墓穴を掘ってしまった。この反応は多分、引いているに違いない。
「あ、ごめん!!今のは言葉の綾というか、深く気にしないで!?」
「あ…そうなの? …そういえば確かに、昔、
そう言った
「海藤さんといえば…杉浦氏、先ほど
「八神さんから?」
私にとっては聞き覚えのない名前が立て続けに挙がったため、頭に疑問符が浮かぶ。
そんな私に気づいたのか、杉浦くんが説明する。
「八神さんっていうのは、神室町の探偵さんね。んで、海藤さんはその相棒みたいな人」
「へえ〜…」
この事務所は神室町までネットワークが広がっているのか。フユちゃんの一件をスピード解決したことといい、結構凄腕なのかもしれない。
「それで?八神さんはなんて?」
「なんでも、神室町で殺人事件があったとか。その調査をしていて、明日、異人町にも顔を出すから協力してほしい、とのことです」
「神室町もあいかわらず物騒だね〜…。わかったよ」
“殺人”というワードが出て、ギョッとしたが杉浦くんは至って冷静だ。探偵にとっては日常茶飯事なのか…?そう考えたところで、私は自分が事務所を訪れた目的を思い出した。
「そういえば九十九くん、フユちゃんの件では本当にありがとう」
「む?…ああ!いやいや、無事にフユちゃんが見つかって何よりでしたなあ!」
「本当にそうね!結局、九十九くんにはお礼言ってないままだったから、お礼言わなきゃと思って」
「何も気にすることはありませんぞ!猫探しも立派な探偵の仕事ですからなあ」
すると杉浦くんが口を挟む。
「ああ〜!九十九くんばっかりずるい!名前さん、僕には〜?」
「杉浦くんは優子が直にお礼言ったでしょ?私は優子の代理みたいなもんだから」
「九十九くんに連絡したの、僕なのに…」
杉浦くんはわざとらしく拗ねた顔をする。私は仕方なく、「はいはい、ありがとね」と言った。「言い方が軽い!」と杉浦くんはまた拗ねたが、可愛いので気にしない。
そんなこんなで話をしていると、あっと言う間に陽が傾き出していた。すっかり長居してしまったことに申し訳なさを感じつつ、私は横浜九十九課を後にすることにした。席を立った私に対して杉浦くんが告げる。
「ええ〜?もうちょっとゆっくりしていきなよ〜」
「十分長居しちゃったから!それに、八神さん?って人も明日来るんでしょ?準備とかしなくていいの?」
「八神さんとはもう古い縁だし、大丈夫だよ〜」
杉浦くんがそういうと、話に割って入るように九十九くんがこう言った。
「そうもいきませんぞ、杉浦氏? 我々が話している間に、八神氏から今回の事件の詳細と資料がデータで送られてきました。八神氏が来る前に読み込まなくては」
「え!それ早く言ってよ!」
「いやはや、杉浦氏が本当に楽しそうでしたからな!水を差すのは悪いと思いまして」
ということは、そろそろ本当にお邪魔かな?
「ほらほら、なんか忙しくなりそうだし、私はお暇するね!また今度、ちゃんとお礼しに来るから!」
「本当に?約束だよ?」
私は「わかった、わかった!」と杉浦くんに言いながらその場を去った。