落下

私達の世界はいつだって灰色だった。

『んじゃライムはあっち頼むわ』
『りょー!』

そう言っていつも通り二手に別れた私と仲間内の一人アイちゃん。埋めつくほどのがらくたの山の中、硝子の破片などで足を傷つけないよう慎重になって進む。

薄汚れた世界だ。見渡すりゴミ、ゴミ、ゴミ。ゴミの山が幾重にも列なって、地平線の彼方まで埋め尽くしている。そんなごみ溜めの中で息を潜めるように生きてきて、他の生き方なんて知らない薄汚れた人間。此処の住民達は皆そう。

鮮やかな色なんて知らない。
食べ物に困らない生活なんて知らない。
人が毎日死なない世界なんて知らない。

知っているのは、このゴミ山の何処かに埋まっている何かが生活に代わる何かになるということだけ。そうして私達は今日を生き抜くために今日も何かを探す。そう、そんな廃れた毎日だった。数時間前までは。


▲▽▲▽▲▽


目の前には真っ黒集団。頭上にはぽっかり開いた穴。綺麗に開いたようで何階分か上から『外』のような綺麗な青が見えた。

一体何が…………。

どれぐらい呆然とその場に座り込んでいたのか、視界の端で先に動きを見せた真っ黒集団を確認し、私も慌てて立ち上り走り出す。

真っ黒集団は明らかに『外』の人達だし世間知らずの私でも分かるほど見た目が堅気の人達じゃない。ここは一先ず逃げなければと全速疾走しだす。チラッと見ただけだけど真っ黒集団は『一般人』のようだ。行く宛は無かったけど『一般人』相手ならなんとか逃げ切れる、と思う。『一般人』に負けるほど柔な鍛え方はされていないしね!

何やらギャーギャーと解読不能な言語で叫びならが銃を打っ放し追い掛けてくる真っ黒集団。何て言っているのか分からないので完全スルーしながら此処までのことを思い出せるだけ思い出してみた。

えーっと確かいつも通りアイちゃんと宝探し(ゴミ漁り)してて、そしたらなんだかキラキラしているものを見つけたんだ。うん、ここは覚えてる。見つけたの私だし。それが丸いもので、何かに代えられるモノなのか分からなかったからアイちゃんに見せようと思って一旦合流して。……………して?


『ライム!』


『あ』

そうだ!そうだよバーミーさんだ!


『こりゃ最高傑作になる予定だったんだよ!あとはお前が捨てちまったカルマさえ揃えば、』
『なぁに?あんなのに名前とか付けてたのウケる』
『うるせえええええええ!!!!』
『バーミーさん!なんかこれ!これ!キラキラ拾ったキラキラー!』
『あ、おいライム走ると転ける……』
『あうっ!』
『『あ』』
『『え?』』


あ、あああああああ!!!!!

はたと思い出した一連の騒動にやらかした!と頭を抱えたくなった。自分の記憶が正しければその場に居合わせた友人達も巻き込まれている筈だ。最後に聞こえた彼女の声が脳内で響く。会いたいが、会ったら何を言われ、そしてなにをされるか分からない。長年の経験からか恐ろしくてガタガタと震えてきた。

無事を祈りながらも暫く会いませんように!と飛び交う弾丸を軽々と避け、手短にあった窓ガラスを割り外へと出た。律儀に廊下を逃走してやる義理はどこにもなかったな。逃げたければ一番手っ取り早い手段をとればよかったのだ。なーんだ、と油断していた。

その時だった。

とんでもない音を撒き散らせながら爆発した。何が?いや分からない。何せ自分に被害は一切ない。じゃぁ何だ。恐る恐る後ろを振り向き確認したら、


「ま、待ってくださああああい!!!」


な ん か 来 た !


スポーン!と飛ばされてくる何か。形からして人だ。
見たところ年の頃が自分と同じぐらいであろう男の子が泣きながら突進してきた。何故私の方ではなく自分の方が爆風まみれなのかは分からないが、男の子は一直線に外へと飛び出た私の方へと向かって来たのでほぼ条件反射で殴り飛ばしてしまった。

バキッ、と鈍い音をたて吹き飛ぶ男の子。咄嗟だったけど、ちゃんと力加減は出来ていたけれど、私の拳が唸りをあげてしまった。轟音を轟かせ後方の建物を破壊しながら沈む男の子。あれ生きてるよね?大丈夫だよね?あれ?

突き飛ばされるように飛ばされてきた男の子をこれまた突き返すように飛んできた方向よりちょっとそれたがUターンする様に返された男の子。弱い。若干引きながら男の子へと合掌して、走るスピードは緩めずにそこでやっと辺りを観察し出す。

『ここってどーゆー組織なんだろ………』

外に飛び出してみてぐるりと見渡した建物の外観は正直よく分からない。『外』には両手で数えられるぐらいしか出たことはないが、こんな風貌の国はあっただろうか?建物の外観からは分からないが真っ黒集団の人達からして裏社会の人間であることは分かる。裏社会と言ったらやはりマフィアだろうか?私はマフィアに売られたのだろうか?え、バーミーさんあの装置なんだったの。

相変わらず四方八方から飛び交う銃弾を躱す中、一種の不安と疑念を胸に頭が沸々とオーバーヒート寸前のところにまたしても何かが降ってきた。ん?降ってきた??ドゴォオンと爆発ではない轟音と砂埃がいつの間にか立ち込めている。動かし続けた足もつい止めてしまい、銃声も止んでいた。

コツ、コツ、とゆっくり何かが近づいてくる。立ち込める砂埃がゆらゆらと揺れ、その中からさっきとは違う男が銀色に光る棒みたいなものを両手に持って現れた。ギラリと鋭く光る眼光からいい知らぬ獰猛さが垣間見えて、ヒッと引き攣った悲鳴が短く出た。あ、あれはヤバい!本能がそう告げている。

「君、よく動くよね」

にこりではなくニヤリ。笑っているのにその笑みは悪い人の笑顔だ。さっきまで乱雑に銃を打っ放していた真っ黒集団もその男の登場で銃口こそ向けてくるも誰一人打っては来ない。

どうしよ。走って逃げ切るか、闘って逃げ切るか。闘うとなると絶対目の前の男だけで済む筈がない。つい止めてしまった足に舌打ちしたくなったが、つい止めてしまうほど目の前の男のオーラというか殺気に背筋に悪寒が走ったのだから仕方がない、と思う。


この人からは『オーラ』は見えないのに、

「僕を楽しませてよ」

なんだこの緊張感!


躱す前に、銀色が振り翳された。


17.5.7