別れた日と再会した日。







海底からオヤジの船が湾内に現れ、いよいよ海軍と白ひげの全面戦争が始まる。おれは目前に広がる光景をただただ見ている事しか出来ない。処刑台に鎖で繋がれたおれを助ける為に家族は戦おうとしている。


おれの為にだ……。こんな、鬼の血を引くおれを……。




オヤジが能力で津波を起こし、青キジがそれを凍らせる。船の動きを封じる為に海まで凍らせた。





船にはオヤジや、マルコ、家族達の姿が見えおれは泣きそうになった。


ティーチに殺されかけたサッチの姿も見えた。




よかった……、怪我は治ったんだな……。











それよりもしも、オヤジ達を振り切ってティーチを追い掛けなければ全面戦争も起きなかっただろうし家族を危ない目に晒す事にもならなかったんだろう……。だが、ティーチが仕出かした事には目は瞑れなかった。


今頃後悔しても遅い……。





おれは地面に頭を付ける。






すると、直ぐにぶわりと風が巻き起こった。そして、響めく音が大きくなった。元帥であるセンゴクが慌てる声も聞こえる。


何事かと、顔を上げれば処刑台にはセンゴクの姿は無く鎖に繋がれたおれと、
















「……なまえ……?」















この殺気立った戦場に似合わないヒヨコのアップリケが付いたエプロンをはためかせ、おれの目の前にニコリと笑うなまえが立っていた。


おれを拘束していた鎖を意図も簡単に外し、そのまま背中に手を添えられ両膝の下に手を入れられ軽々と抱き上げられた。


処刑台の近くには海軍のトップ達が居て簡単に近付く事も出来ない筈なのになまえは現れた。センゴクを蹴落としてだ。


有り得ない状況に頭がついて行かないけど……。










「……さぁ、帰りましょうかエースさん」









見上げたなまえが優しく笑いかけてくれる。おれはその笑みに安心しなまえに体を預け涙を堪え小さく頷いた。


その優しげな目に不覚にも胸がドキッとしてしまった。








なまえは処刑台から飛び、海軍達の攻撃を受ける前に物凄い速さでオヤジのところへと辿り着いた。モビーディック号へと戻れば歓声が上がる。











「オヤジさん、また戻ったら説明しますので今は撤退を……!」








おれをゆっくりと降ろし、なまえは船から飛び降り数秒遅れてけたたましい破壊音が聞こえ水飛沫が上がる。


なまえが海面の氷を破壊したのだろう。




そして、なまえはまた飛んで海兵が居る広場へと降り立ってしまった。





なんで、何してるんだよなまえっ……!!












「なまえ!!早く戻ってこいよ!!」











おれが必死にそう叫べばなまえは振り返り真面目な表情を浮かべ口を開いた。












「まだ、やるべき事があるんです!必ず戻りますから!オヤジさん!早く撤退して下さい!!」







まだやるべき事があるってなんなんだよ……!!


オヤジはおれの腕を掴み首を左右に振りなまえに向かって叫ぶ。








「……なまえ、必ず戻れ!」








そう言って、撤退命令を出すオヤジに驚きおれはオヤジに掴みかかる。







「オヤジっ!!なんでなまえを置いていくんだよっ!!」









なまえが残った理由も本当は分かってる。誰かが足止めしなきゃ、無事に新世界には戻れない。


だからと言って、なまえを1人残してさっさと逃げるなんて見捨てたみたいで居た堪れない。










おれが最後に見たなまえはおれ達を安心させるかのようにとても綺麗に笑う姿だった。














***












頂上決戦からもう3ヶ月と数日が経った。おれ達が撤退した後、おれを助ける為にインペルダウンから駆け付けたルフィ達を無事にマリンフォードから脱出させる為になまえは残ったのだとオヤジやマルコ達が話していた。

新聞の記事にも大きく海賊王の息子のおれや革命家ドラゴンの息子のルフィを逃がした事で海軍に多額な懸賞金を掛けられ賞金首になったとも書かれていた。




……早く、帰ってこいよな……。






今朝の新聞に挟まれたなまえの手配書を手に持ちながら海を眺めていた。
なまえの手配書にはおれを抱えて笑う写真が使われサッチがこの手配書を見た瞬間腹抱えながら笑いやがったからムカついてリーゼントを燃やしてやった。おれだって横抱きにされた写真が使われるとは思わなかったし、これは海軍のおれに対する嫌がらせだろう。


しかも、異名が姫抱きのなまえって……!もっと真面目に考えろよ!!思わず見た瞬間ツッコミを入れてしまった。











「エース、そろそろ嵐が来る船内に戻れよい」

「……マルコか」

「またそれ眺めてんのかい」

「……なまえ、帰ってくんのかな」









手に持っていた手配書を見ながらボソッと呟けば、強い風が吹き付け手配書が指をすり抜け離れていってしまった。


飛ばされた手配書に手を伸ばし掴もうとするが風に乗ってあっという間に遠くへと飛んでいく。





飛んでいってしまった方へと手を伸ばしたままおれはなまえの名前を呟けば、




今度はさっきよりも強い風が吹きおれは目を閉じれば、伸ばした手に暖かな感触が伝わってきたんだ。
















「……ただいま帰りました、エースさん、マルコさん」













最後に別れた時と同じように綺麗に笑うなまえがおれの手を握っていた。






おれはその手を自分の方へと引き寄せた。













「帰ってくんの遅いんだよ、バカ……!!」









なまえの肩に顔を埋め涙を必死に堪える。そんなおれの頭をなまえは、すみません、と困ったように撫でながらそう言った。


ちゃんと、戻ってきてくれた。






顔を上げてなまえにあの時言えなかった事がやっと言える。














「……助けてくれてありがとう……!」











なまえは笑って頷いた。











「……これで、家族が全員揃ったねい。」







マルコの言った通りやっと家族全員が揃った。その事が嬉しくておれは耐え切れなくなって泣いてしまった。


なまえはおれの涙を細い指で拭い困った表情を浮かべ慌てていた。お前が帰ってくるまでおれ達は不安だったんだからな……!













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