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 コートを来ていると汗ばむ季節になった。相変わらず私の日常はつまらないもので、バーボンに同行するか一人で部屋にこもるかで自由な時間はない。そんなことを言ったら綱吉や獄寺に怒られそうだけど、やりたいことができないのは自由がないのと一緒なのだ。いくら寝続けることができても一人で外出はできないし、高そうな料理を食べることができても友達に会うこともできない。しようと思えばできるけれど。
 ベッドの上で大の字に寝転がり「ひまだなあ」と呟く。
 パスカル曰わく、人間は考える葦だそうだ。それなら思考するということをせずに命を消耗している今の私は人間ではないようだ。
 いろいろ考えないといけないことは山積みだ。それなのに考えることはできない。
 新しい風を待ち望む私のところに、嵐がやってきた。

「ジンのところに行くわよ」

 部屋に入ってくるなり早々にベルモットはそう言った。言われるがままに用意をして、ベルモットに導かれるままに車に乗った。運転手は見覚えのない男。ベルモットが指示を出さずとも車は動きだす。
 振動の少ない静かな車内。外からは春の日射しが降り注ぐ。うとうとと瞼が重くなる。ちらりとベルモットを横目に見るが、私のことなんて存在しないかのようにアンニュイな表情で窓の外を見つめている。絵になる美しさに眠気が少しましになった。だけど、それも下道を走っている間だけ。高速道路の定期的な縦の揺れにまた眠気が襲ってきた。
 ――ジンが何の用だろう。
 いつもジンの用はわからない。今日はどんな無理難題を言われるのだろう。


 屋敷に到着し、またベルモットの後ろを追って中に入る。階段を上り、ジンの待つ部屋に入った。
 ジンはソファーに座り、何か資料を読んでいた。

「連れてきたわよ」

 ベルモットはそう言うと、ドカッとジンの前のソファーに腰をおろした。私はどこに座ろうかと少し考えてから部屋の隅にあるスツールに座った。普段はベルモットの横に座るけれど、なんだか今日はベルモットの雰囲気がいつもと違っていて近寄りがたい。
 私が座ってもなかなかジンは口を開かず、ベルモットは苛立ちを隠せないように「ジン」と急かす。その声にようやく顔を上げたジンは真っ直ぐ私を見た。

「お前のこれからのことについて話す」

 そう前置きしたジンは、読んでいた資料を私に見せた。そこには今まで私が同行した任務について書かれいた。私の様子について報告されているだろうということはわかっていたから驚きはしない。もう一度報告書をパラパラと捲ったジンは「フン」と鼻を鳴らした。

「短期と長期、どっちの任務がやりたいんだ」

 唐突な言葉に返事ができない。今まで私が同行してきた数日かかる任務はすべて短期だ。長期になると短くて数ヶ月かかる。そうなってしまっては有事の際に身動きが取れなくなってしまう。そう思って「短期がいい」と答えたが、返ってきたのは無言。いったいジンが何を考えているのかさっぱりわからない。しばらく見つめているとジンはおもむろに口を開いた。

「前にも伝えているが、俺たちは悪人だが悪人を裁く善人でもある。お前も自分をあんな目に遭わせたような奴らを許せねえだろう? だから今まで抵抗することなく任務に同行してきた。まだ子どものお前が使い物になると思わなかったが、お前は俺たちの想像以上によくやった。今までは俺たちの任務について見学させるだけだったが、これからは一人で任務に就けるようにするつもりだ」

 嘘をバレないようにするためには事実を混ぜること。ジンの言葉には嘘と事実とが混ざり合っている。ジンは洗脳は苦手そうだと思っていたけれど、アメとムチの使い分けはうまそう。今までの冷徹さに怯えていた子どもは、目の前の優しい言葉を投げかけるジンに心を許すだろう。普通の子どもだった場合は。
 普通の子どもじゃない私は、アメとムチを使い分けるジンの言動を観察して、ザンザスにはこれが足りないんだと遠い異国の地にいるジンに似た雰囲気の男を思い出していた。ジンと違ってザンザスはヴァリアーのトップだし、別にする必要はないんだけど、でももう少し柔軟性があってもいい。昔よりは幾分かましになったけれども。

「まだ一人ではやらせねえが、近いうちにそうなることを覚えておけ」
「はーい」
「あらかじめ、どういう任務をしたいかを俺に言えば、組織に来た依頼から適当なものをお前に振る。任務を完遂したら、依頼者から組織に金が渡り、そのうちのお前の取り分がお前の手元に来る」

 組織が仕事の仲介役なのはわかったけれど、これを普通の六歳は理解できない。そういうところはザンザスと一緒だ。
 わざわざわからないフリをするほどのことでもないので、適当に頷いて話を流す。そのあとも任務をする上で知っておかなければいけないことの説明がいくつか付け加えられた。だけど最後まで、ボスから降りてくる任務についての説明はされなかった。
 ジンの説明だと、この組織はただの人材派遣会社でしかない。依頼者は組織に任務を依頼して、組織は構成員の中から適した人材を任務に遣わす。成功報酬を得た組織は、そのお金の何割かを手数料として取り、残ったお金を構成員に渡す。もし、ただの人材派遣会社ならば、ボンゴレが警戒するわけがない。ということは、私のような下っ端はただの資金集めの手段か、もしくは外部からの依頼だと偽って知らないうちに内部の仕事をさせられているか。どちらにしても、今の私の立場では何もわからないままだ。
 ジンの話のあとは、ベルモットが口を開いた。

「どうして短期任務がいいの」

 本当のことを言うわけにはいかない。

「バーボンに会えなくなっちゃうから」

 なんて、いじらしい言葉を吐く。
 ベルモットはジンに目配せをして「わかったわ」と頷いてから、「ただし」と言葉を繋ぐ。

「あなたに向いている長期に任務がどのようなものかの説明はするわよ。一度経験してみて、それでも短期がいいのならそれでかまわないわ」

 食わず嫌いはするなということか。
 ベルモットは「着いていらっしゃい」と部屋から出ていった。

ヒトリヨガリ