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寒くなるとお腹がすく。体温を上げようとカロリーを使うから、体がエネルギーを補給しろと訴えてくる。手軽に食べられるのは、もちろんお菓子。だからお菓子を食べてしまうのは仕方がないんだ。
なんて言い訳はバーボンには通用しない。
目の前で目尻をつり上げて仁王立ちしているバーボンに「ごめんなさい」と謝った。それなのに「僕に謝るのはおかしいでしょう」とめんどくさいことを言う。
「別に僕は愛子がお菓子ばっかり食べても困りませんから」
でも怒ってるじゃん。なんてことは思っても言わない。
「愛子がお菓子を食べて太っても、虫歯になっても、体を壊しても僕には関係ありませんからね」
「これからは気をつけます」
机の上に散らばったままのゴミをゴミ箱に流し込む。それからバーボンに「心配かけてごめんなさい」と、もう一度謝ると、バーボンは豆鉄砲でもくらったように驚いた。そりゃ、五歳の子どもがこんなことを言ったら驚くだろう。でも私は大人だから、バーボンが怒ってる理由をちゃんとわかっているのだ。気にかけているのに、それを無視して食べるから怒ったのだ。わかっていても食べてしまったけど、ちょっとだけ良心が痛んだから謝った。
「そんなこと言っても、どうせまた食べるんでしょう」
「気をつけはするよ」
「はあ」
バーボンが折れた。謝らなかったら、まだぷりぷり怒っていたはずだから作戦勝ちだ。
小言を少し言ってから、バーボンは片手に持っていたビニール袋を私に見せた。中に食材が入っているのが見えていたから、ずっと気になっていたのだ。なんだろうと首をかしげると、バーボンが「サンドイッチ、作りますよ」と言った。
「本当に! やったー!」
「だからお昼より早めに来たのに、愛子はお菓子で腹をふくらませているから驚いた」
「先に言っててくれたら食べずに待っていたよ!」
バーボンのそばに駆け寄って、「早く作ろう」と背中を押して部屋から出た。
サンドイッチなら簡易キッチンで十分だ。まっすぐ廊下を進んだ先にあるそこに行き、バーボンからビニール袋を受け取った。中身はレタスとハムとサンドイッチ用のパン。前に私が食べたいと言っていたハムサンドの材料だ。
いつもはバーボンに作ってもらうけれど、サンドイッチは苦手だと言うし、大月さんのサンドイッチを食べてもらいたいから今日は私が作ろうかな。
「バーボンはサンドイッチのパンって生が好き? それとも焼いてるのが好き?」
「どっちでも好きだよ」
「どっちでもいいっていうのが一番困るの」
冷蔵庫を開いて調味料を確認する。バターと粒マスタードを取り出して、今日は寒いからトーストしようと決めた。そっちの方がバターが溶けるし。そうと決まればパンをトースターに並べて入れタイマーを回す。その間に、バーボンにレタスを洗ってもらう。
サンドイッチ用は薄いからすぐに焼き上がった。こんがり焼き色のついたパンをまな板の上に乗せて、バターを塗ってから粒マスタードを重ねて塗り、そのあとコショウを振りかけた。
「それでハムを乗せるでしょ。このあとレタスだけど、千切ってのせちゃダメなの。千切るとバーボンが前に言ったみたいに、包丁で切るときに飛び出しちゃうの」
バーボンは頷いた。
「レタスは、こうやってパンのサイズに折り畳むの」
パンからはみ出ないサイズに、レタスを四つ折りにした。大きい葉っぱはもうちょっと折らないといけない。
こうしたらレタスたっぷりのサンドイッチでも、溢れずに切ることができるのだ。
どうだ! とバーボンに見せると、「なるほど」と感心したように呟いた。
「……大月さんから教えてもらったのか?」
「う、うん。そうだよー」
本当はルッスーリアに教えてもらったなんて言えない。勘違いをさせたままにしておこう。
狭いキッチンで二人肩を並べてサンドイッチを作る。単純な作業しかないハムサンドだから、作りながらのんびり話す余裕がある。
「明美さん、美人だったよ」
「そうか」
「ライにもったいないくらい」
バーボンは微かに笑った。
ライが悪い人だとは思わない。裏社会の人間だけど、それを言うなら明美さんだってそうだし。裏社会の人間の中じゃ、かなりまともだと思う。急にキレたりしないし、無駄に残酷な殺し方したりしないし、声もでかくないし、変態でも、お願いしても金銭を要求しないし。本当にヴァリアーと比べたら人畜無害と言っても過言じゃない。だた、ちょっとだけ目付きがロリコンってだけだ。
「明美さん、また来てくれないかなー」
「随分なついたな」
「だって、優しいし綺麗だし、……お姉ちゃんってこんな感じかなーって」
ああ、甘やかして癒してくれる姉がほしい。今は十分休息があるから、私がボンゴレに戻ったら明美さんもボンゴレに転職してほしい。
「残念だが、彼女とは当分会えない」
「え! どうして? ライが嫉妬するから?」
「そんなふざけた理由じゃない。……彼女は組織の人間だが、所属しているだけで活動を行っているわけじゃないから、研究所に来ることもないんだ」
「呼べば来てくれる?」
「来るが、頻度が高いと周りから不審がられるだろう?」
バーボンの言うことはもっともだった。
せっかく暇潰しができたと思ったのに。残念だ。
そうこう喋っている間に、材料をすべて使いきった。仕上げの三角に切るのはバーボンにやってもらった。出来上がったサンドイッチは二人で食べるには少し多い。
「いっぱいできたね」
「ああ」
「食べきれる?」
「問題ない」
バーボンはさっさとお皿をトレーに乗せて、コップを三つ準備した。
三つということは誰か一緒に食べるんだ。それなら、この量でも食べきれそう。
バーボンに渡されたオレンジジュースのペットボトルを両手で持って、バーボンの後ろをついて歩く。