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 三日に一回くらいロッシと連絡を取っていた。毎回私が暇かと聞き、「忙しい」と無下に断られるのが恒例になっていた。それに不満はなかったけれど、そろそろ会いたいなと思っていたら「今日は用事はない」とどこか不服そうな声で言われた。反対に私の声は明るくなる。前に会った神社で落ち合おうと約束をして、私は上機嫌でクローゼットを開いた。
 任務のときは気が引けて着られない、パステルカラーのグラデーションがかったワンピースを出してきて頭から被るように着る。リュックは黒のフェイクレザーだけどウサギがモチーフだからちぐはぐにはならない。クローゼットの扉の内側についている鏡でチェックしてから部屋を出た。
 廊下ですれ違う白衣の人たちに挨拶をして、最後に受付のお姉さん「いってきまーす」と声をかけてから外へ出た。あいにくの曇り空。灰色の重たい雲が太陽を隠しているけど、雨は降らなさそうで安心した。
 外を走り回れるのは子どもの特権な気がする。大人になると、いつの間にか走るのは格好悪いみたいな風潮で余裕のあるフリをして歩いていた。はやる気持ちのまま走るのはこんなに楽しいのに。
 この前、散策したときに寄ったお店には脇目もふらず、私は神社を目指す。具体的な時間は指定していないし、ロッシはまだ来ていないかもしれないけれど童心にかえった私の心がゆっくりすることを許さなかった。
 ゆるやかな上り坂を足に力をこめて進む。そして到着した神社の前の売店に、ロッシはいた。
 ――この近くに住んでいるのかな。
 随分と早い到着に驚いた。私だって電話を切ってから三十分もかかっていないはず。それより先に着いているとは思わなかった。
 「ロッシ!」と声をかけると、おもむろに私の方を見た。今日は曇っているからサングラスはかけていない。

「今日も元気そうだな」
「まあね。ロッシは今日も気だるげだね」
「わざわざお前のために家から出たからな」

 「そうなんだ、ありがとう」と、ロッシの嫌味を気にせずに言う。
 前と同じように、売店の軒先のベンチに腰かけた。そして、お店の人にソフトクリームを一つ頼んだ。抹茶ソフトだ。ロッシは僅かに時間をおいてアイスコーヒーを頼み、私の分とまとめてお会計をした。別に自分で払うのに、と言おうとしたけれど六歳児にお金を出させる大人は少ないかと口を閉じた。

「俺のことをニートだなんだと言ってたが、お前こそ小学校はどうしたんだ」

 ソフトクリームを食べようと口を大きく開けたまま固まった。
 ――そういえば、普通の六歳児は小学校に行っているんだった。
 組織にいると、小学校に行っていないことの方が当たり前になっていて忘れていた。何かいい言い訳はないかと頭を回転させるが、脳内のリボーンが「お前がうまい嘘をつけるわけねえだろ」とバカにしてくる。悔しいけれど、まったくその通りだ。
 嘘ではなく、勢いで誤魔化す。それが私のやり方だ。ボンゴレらしいスマートさなんて持ち合わせていない。

「なんでもいいでしょ。子どもにも色々あるの!」
「なんでもよくはねえだろ。親はどうしてるんだ」
「親は関係ないでしょ」
「お前を学校に通わせるのが親の義務なんだから関係あるに決まってる」

 ロッシのような頑固な常識人は骨が折れる。それでも私は「子どもの世界もややこしいの!」と理由になってない理由でねじ伏せる。この見た目だからできることだ。
 それ以上追求することを諦めたロッシは、それでもまだ何か言いたげにコーヒーを飲んだ。そのまま疑問も飲み込んでしまえ。

「何か悩みごとでもあるのか」

 今度は落ち着いたトーンで、まるでカウンセリングのように聞いてきた。
 何もないと言い切ってしまえば簡単だけど、そうするとまた「じゃあ、なんで学校に行かないんだ」とループするに決まっている。お節介なんだかデリカシーがないのかわからない。
 そういう相談に慣れていなさそうなところを見るに、きっと善意のお節介なんだろうけれど余計なお世話だ。
 だけど、どうせなら利用させてもらおう。

「……友達ってどうやって作るの?」

 最近の私の悩みは「コネを作れ」という命令だ。そのままコネと言うわけにはいかないから友達と言い換えた。すると、学校に行かない理由にもピッタリ当てはまりそうだった。

「友達か……」

 どこか懐かしむように遠い目をするロッシに「新しい友達を作らないといけないんだけど、作り方がわからないの」と補足する。

「なんだ、入学して先生に『友達百人作りましょう』とでも言われたのか?」

 冷やかすロッシの腕を叩く。
 ロッシはアイスコーヒーのカップをぐるぐる回す。氷がガラガラと音をたてる。

「別に作れないんだったら作らなくていいだろ。友達はいるんだろ?」
「いるけど……」
「先生に言われたのか親に言われたのか知らねえが、わざわざ新しい友達なんか作らなくても、今いる友達と遊んでろよ」
「でも、遠くに行っちゃったし」
「今の時代、携帯っていう便利なもんがあるだろう」

 何も知らないから簡単に言う。今までの友達――ボンゴレは今の私には不釣り合いな存在だから情報源にはできない。むっと眉が寄る。

「あんまり難しく考えるなよー」

 がしがしと頭を撫でられて頭が左右に揺れる。

「難しく考えてる?」
「考えてるな。俺が小学一年のときなんか、もっと何も考えてなかったぞ」

 私だって小学一年の頃は頭のなか空っぽだった。
 ――空っぽかあ。
 何も解決していないけれど、気持ちが楽になったように感じる。元々考えるのは苦手なんだ。私の仕事じゃない。
 まだ頭を投げ続けるロッシの手を払って、もう少し軽く考えてみるかと曇り空を見上げた。

ヒトリヨガリ