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 夜が明ける頃、私は研究所に着く前に車を下ろされ、小さな公園の弱々しい白い光を放つ外灯の下にぽつんと立っていた。もう少しで研究所に着くんだから送ってくれてもいいのに、ジンの帰り道じゃないからと無情に捨てられてしまったのだ。それもこれも、バーボンがライのことを聞きたいと言ったせいだ。裏切り者が出て気が立っているから、バーボンには会いたくないのだろう。バーボンへの説明も任されてしまった。
 外灯に寄りかかって空を見上げていると、聞きなれたエンジン音が聞こえてきた。
 駆け足で公園から出れば、丁度白い車がするりと目の前に停まった。

「こんばんは、じゃなくておはようかな」
「ああ、おはよう愛子」

 助手席のドアを開いて、挨拶をしながらよじよじとシートに上った。シートベルトをして背中をシートに預けると、車はゆっくりと動きだした。
 バーボンの横顔は、思っていたより冷静だった。
 ジンより裏切り者のことを忌み嫌っていないのかな、と安心しているとバーボンの呼吸の深さが変わった。その瞬間、ピリッとした空気が流れた。

「それで、ライは……」
「FBIの仲間だったよ。ジンを捕まえる作戦だったみたい。でも隠れていたFBIの人が倉庫に来た組織の人に『ここは危ない』って言っちゃって作戦失敗」

 バーボンは、ギュウッと音が鳴るほど強くハンドルを握りしめた。今にも鈍い殺しそうな目は、ネオンの光で煌々と輝いていた。

「やっぱり、今から倉庫に行く?」
「……いや、僕一人で行っても敵わないだろう」
「私も援護するよ。……ジンに銃返しちゃったから何も持ってないけど。バーボン、予備の銃とかないの?」

 一拍置いて、バーボンは「撃ったのか?」と静かに聞いてきた。まるで尋問みたいな重みのある声に心臓がきゅっと縮こまった。

「ううん。渡されて、そのあとFBIの人数が増えて撤収したからそのまま返したよ」

 平静を装って言うと、バーボンは「そうか」と納得したような返事をしたけれど明らかに苛立っていた。その矛先は私ではなく、おそらくジン。それでも私に対しても怒っているように思えて、視線をさ迷わせながら話を変えた。

「それにしても、ライがFBIだなんて驚きだよね。ジンくらい目つき悪いのに。どっちが犯罪者かわからないくらいよ」

 笑い話にしようと思ったのに、バーボンは息を詰めて黙り込んでしまった。

「ど、どうしたの?」
「……どっちが犯罪者かわからないって、僕たちがやっていることが悪いことだってわかってたのか」

 赤信号でブレーキを踏んだバーボンが、普段よりも目を大きく開いて私の目を見つめた。
 完全に油断していた。だけど取り繕うほどのことじゃないかと腹をくくって「私、そんなにバカじゃないよ」と言いきった。

「スコッチが警察なのに裏切り者だって殺されたときから気づいてたよ。……でも、別にいいじゃない。ここにいれば私にこんなことした人たちを倒せるんでしょ」

 瞳を赤くしながら言った。
 いい組織だという洗脳は失敗しているけれど、忠誠心さえ見せておけば問題ないだろう。疑われたり監視されたりすることはあるかもしれないけれど、それくらいどうってことない。

「そう、だけど」
「でしょ?」

 バーボンの目力に負けないように力を込めて言うと、ふうと息を吐いてバーボンが脱力した。
 信号は青に変わり、また車が動きはじめた。
 さっきより空気は軽くなったけれど、それでも前を見つめるバーボンの瞳には熱があった。ライの話をしたときから変わらない揺らぎだ。

「これからどうなるんだろうね」
「これから?」
「バーボン組む相手だよ。元々スリーマンセルだったのがスコッチがいなくなって、ツーマンセルでしょ。まあ、結構単独が多かったけど。……私がこれからもバーボンにくっついていくなら、バーボンが誰と組むか気になる」
「ああ、そうだね」

 これからか、とぼんやり呟いてバーボンは黙ってしまった。
 そのまま気づけば車は研究所の前に到着していた。停車した車の中、まだバーボン何かを考えているらしく、降りるに降りられない。
 紺色を墨で塗りつぶしたような色だった空は、もう明るい色をしていてビルの谷間から朝日が見えるようになるのは時間の問題だろう。

「これから、僕は単独で任務に当たろうと思う。元々、情報を集めるのに誰かと組む必要はないからね」
「……そっか、じゃあもうバーボンと会わなくなるのかな」
「いえ、愛子の世話係を降りるつもりはないよ。……それに」

 バーボンは一度言葉を切って、目を伏せてから息を吸って私を見た。

「一緒に住もう」
「え?」
「やっぱり、ここは小さい子が過ごす場所じゃないよ。……ただ、スコッチもライも、友達もいなくなった君から研究所の知り合いも取り上げることになるけど」

 まるで自分が独りっきりになったかのような悲しそうな表情だった。
 思えばこんな世界にいる人はみんな、信じられるのは自分だけみたいな孤独感じている。同じ組織に属していたって仲間じゃない。明るい世界にも戻れない。
 スコッチは、そんな寂しさを薄れさせてくれていたのかもしれない。
 自分の単独任務中に私が家に一人きりになることを懸念して考え直そうとしているバーボンの腕に、柔らかい私の手を置いて喋るのを止めた。
 バーボンの提案は願ってもないことだった。研究所より出歩くのが楽になるし、幹部と一緒にいる方が有事の際に動きやすい。
 だから、バーボンを安心させるようににっこりと笑ってみせた。

「大丈夫、寂しくないよ。バーボンがいるんだもん」

ヒトリヨガリ