01
「黒の組織?」
屋敷で一番日の当たる部屋――ボスの執務室で、綱吉は眉を八の字にして頷いた。
「はい。次の任務は黒の組織へ潜入してほしいんです」
「ふうん。もちろん断るなんてしないけど。……綱吉がそんなに嫌そうにするなんて、黒の組織って危険なの?」
綱吉の座るデスクに近づきながら尋ねる。綱吉が任務の書類を差し出し、それを受け取ろうと腕を伸ばしたとき綱吉の後ろから少年の声が聞こえた。だけど、きっと部屋にいるだろうと思っていたから驚きはしない。
「ああ。潜入捜査の得意なお前でも危険なくらいヤバい任務だ」
「リ、リボーン、そんな脅かすようなこと言うなよ! 愛子さん、慎重に動くから危険なんてないですよ!」
「甘ったれたこと言うんじゃねえ。お前もボスならボスらしく任務を通達しやがれ」
「そんなこと言ったって!」
「うるせえ」
綱吉の頭スレスレに発砲したリボーンに、私も綱吉も硬直した。相変わらず短気すぎる。リボーンが本気で綱吉を撃つ気がないことはわかっているが、だからって万が一綱吉が身動きしたら弾が当たるようなスレスレに撃たれると固まってしまう。
「愛子も早く書類を受け取れ」
「あ、はい」
引ったくるように素早く受け取ると、リボーンに促されてソファーに座った。リボーンは私の前に足を組んで座った。
リボーンはテーブルの上に置いた書類をトンと指差した。
「いいか、まず潜入の期間だが未定だ」
「未定?」
「ああ。だが確実に長期になる。黒の組織は世界中で活動している犯罪組織だ。正式名称ではなく、黒い服を身に付けている犯罪組織だからそう呼ばれている。……前から気になっていたんだが、最近イタリアと日本での活動が目立つからな、先に手を打っておこうってわけだ。だが奴らは完全犯罪を得意で証拠を残さねえ完璧主義者だ」
「たしかにそれは長期になりそうね」
怪しまれないように、ゆっくり時間をかけて馴染まなくてはならない。
「潜入捜査っつっても、何かを探る必要はねえ。目立つ行動をするとバレるからな。有事の際に動ければいい」
「わかった」
軽く書類に目を通すと、黒の組織についての情報が詳細に書かれていた。文字を追っていると、部屋の扉が開き、メイドが入ってきた。メイドは私とリボーンに紅茶とエスプレッソを、綱吉のデスクにカフェラテを置き、一礼して退出した。
「ふうん。幹部にはコードネームが与えられるのね。お酒の名前なんて洒落てるね」
「愛子には幹部として潜入してもらうから、覚悟しろよ」
「へ? なに言ってるのリボーン! 私が驚くくらい弱いの知ってるでしょ? 幹部なんて死ぬわよ」
優雅にエスプレッソを飲むリボーンを睨むが、リボーンは私のことなんて気にせず口元だけ笑っている。
リボーンの次に奥の綱吉を睨むと目をそらされた。
「愛子さん」
「なに綱吉」
「俺は反対したんですけどね、リボーンが勝手に計画立てて……」
「だからって、綱吉も私の弱さ知ってるでしょ!」
叫んだ口を潤すために目の前の紅茶を口に含むと、綱吉の顔は真っ青になりリボーンはより一層笑みを深くした。嫌な予感がする。
「その、本当にごめんなさい!」
綱吉の悲鳴のような謝罪が聞こえるのと同時に強い目眩に襲われ、ソファーに倒れた。