02

 頭がガンガンと、中から頭蓋骨を殴るように痛む。息苦しいし、目の前は真っ暗で吐き気もする。意識の遠くの方で綱吉の慌てたような声と、面白がっているリボーンの声が聞こる。
 ああこれは面倒なことが起こっているなと舌打ちしたくなった。
 頭痛がおさまってきて、ゆっくりと目を開くと眼前に綱吉の顔が。驚いて「わ!」とあげた声はいつもより甲高く、幼い。嫌な予感が現実になりそうだ。
 綱吉は心配しているように目を細めているが、その奥には楽しそうな色が見える。リボーンなんて愉快そうな表情を隠しもしない。

「愛子さん……、愛子、ちゃん?」
「綱吉に『愛子ちゃん』なんて呼ばれたくないんだけど」

 私の方が歳上なんだけど、と睨む。綱吉は残念そうに肩を落とした。

「あ、やっぱり中身は大人のままですか」
「『中身は大人のまま』?」

 聞き捨てならない言葉をおうむ返しする。自分自身の違和感、綱吉の言動、それらからなんとなく事態の予想はつく。だけど信じたくない。こんな非現実的なこと。
 今までボンゴレと関わってきてから、嫌と言うほど現実離れしたことを経験してきたのに、今さらだけど。

「愛子さん、起き上がれますか?」

 綱吉の手を借りながら、目眩に注意してゆっくりと体を起こすと視線が低い。

「紅茶に……何入れたの」

 もうわかっているけれど、正解を尋ねる。答えたのはリボーンだった。

「ボンゴレ科学班が開発した年齢を操作する薬だ」
「俺は反対したんですよ?」
「反対しても実行したんじゃ意味がないでしょ」

 怒ってみても迫力がないらしく、全然綱吉が動じない。なんてことだ。
 穏やかな表情の綱吉は、「久しぶりに愛子ちゃんの姿を見られてよかったです」なんて言って私の頭を撫でる。その手を叩き落としてキッと睨む。

「私は『愛子ちゃん』じゃない!」

 綱吉の言う「愛子ちゃん」とは、中学生のころランボの十年バズーカの誤作動で中学生の私と入れ替わった5歳の私。綱吉たちと関わるきっかけになった出来事だ。そんな事故に巻き込まれるまで、ボンゴレのボの字も知らずに過ごしてきたが、十年バズーカで起こった事故ということで5歳の私はボンゴレに保護され綱吉とともにボンゴレと関わらざるを得なくなった。
 入れ替わっていたときの5歳の私の記憶はうっすらと残っている。それこそ本当に5歳のころの記憶のように微かに。その記憶の中の綱吉を筆頭にしたボンゴレは、幼い私を丁重に扱ってくれていた。私も喜んでだけど、あくまでもそれは「愛子ちゃん」だ。今の私は姿形が幼くなっても、中身は大人のまま。「愛子ちゃん」のときのように純心で無力な5歳児ではないのだ。
 そのことを説明しても、舌ったらずで必死に喋る私を見て綱吉は笑顔のままだった。

「リボーン! 戻して!」
「何言ってやがる。お前はその格好のまま任務にあたるんだ」
「ばか! リボーンのばかばか!」
「なんか愛子さん、精神年齢も低くなっていませんか」
「知らない。綱吉もばか!」
「ああ、身体年齢に引きずられているみてえだな」

 リボーンは冷静に私を観察する。

「え、こんな状態で大丈夫?」
「大丈夫じゃないから戻して!」
「逆に疑われずに済むだろう。このままでいくぞ」

 リボーンの無慈悲な言葉に涙がこぼれそうになり、唇を噛み締めた。本当に精神年齢が下がっているようだ。

ヒトリヨガリ