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新しい研究所の部屋は質素で面白味に欠けるけれど、その代わりに他の階に好きに行けるからイタリアほど自堕落な生活はしていない。私の部屋のある八階より上には行かないようにと言われているけど、下には自由に行ける。
ごはんも食堂で食べるので前よりもずっといい。今日は月見うどんにした。カウンターで月見うどんを受け取り、適当に席に向かう。もう昼休みの時間は終わっているので、人が少なくて席は選び放題。壁際の席に座って手を合わせてから箸で卵を割った。
誰かに見られている? うどんを啜りながら辺りを見回した。ずるずると吸い込んでいると、私をじっと見る男が食堂の入口に立っているのを見つけた。
目付きの悪い男だ。なんだ文句でもあるのか、と不躾に私を見る男を睨み返していると、食堂にバーボンが入ってきた。
バーボン! と声を上げようとしたが、私が声を出す前にバーボンが目付きの悪い男に話しかけた。バーボンと一緒に入ってきた髭の男も一緒に、三人で何か話している。
なんとなくモヤっとした。友達が取られたみたい。
目付きの悪い男は私を指差した。それを見て、バーボンは私のことに気づいたようでパッと表情を変え、近づいてくる。後ろに目付きの悪い男と髭の男を連れて。
「やあ愛子」
「おはようバーボン。そっちの二人はどなた?」
「こっちの帽子がライ、髭がスコッチだ。近いうちに愛子に紹介しようと思ってたんだ。ちょうどよかった」
「ライだ」
「愛子ちゃん、よろしく」
「……よろしく」
「ん? 今日は機嫌が悪いのか?」
「さっきまではよかったよ」
困った顔のバーボンをツンと無視して、うどんを食べているとライが鼻で笑ったのがわかった。
「嫉妬しているんだろう? バーボンが俺たちと喋っているのを見て。安心しろ、別にお前から取ったりしない」
「ははは、バーボン愛されてるな。よっ色男」
「冗談はよせ。愛子に限ってそんなわけ……」
私を見たバーボンと目が合った。そして驚いたようにパチリとまばたきした。
「あれ? もしかして、本当に?」
「別に嫉妬してるわけじゃあーりーまーせーんー。ただ、その目付きの悪い男の目がいやらしいからどっかいってほしいだけ」
「そうか、なら違うところで食べるとするか。バーボンとスコッチも連れて。……冗談だ、そんな睨むな」
「睨んでないし、別に二人とも連れていったらいいじゃない」
「まあまあ、そんな顔してる女の子を一人でごはんを食べさせられないさ。なあバーボン」
「ああ。愛子が嫌ならライを一人にさせるから安心しろ」
冗談言い合ってる姿も仲良しアピールをしているようで鼻につく。だけど、それ以上に私のことを子ども扱いするバーボンとスコッチが気にくわないので、ここは私が大人になってライの不躾な視線を我慢することにした。
「それで、バーボンたちはごはん食べないの? 何も買ってないけど」
「ああ、僕たちはもう食べてきたんだ」
「じゃあどうしてここに?」
「愛子のところに行く前にコーヒーでも飲もうと思ってたんだ。だけど、偶然ここで会えたからね」
三人は私の前の椅子に座った。長話をするつもりか。
うっかり嫌な顔をしてしまったのか、ライが私の顔を見てフッと笑った。ライのことをバーボンに文句を言おうとしたが、バーボンはスコッチと話していて私に気づいていない。別にライの目は私のことを探るような目ではないからいいのだけど、こんなにじっと見られたら食べにくい。さっさと食べ終えて部屋に戻ろうと、どんぶりを両手で持って残りを煽った。
でも疑っているわけでもなく敵対心を抱いているわけでもないなら、どうして私を見ているんだろう。私が元の姿だったら一挙一動を気にするのもわかるけど、今は年端のいかない子どもの姿。
「まさかロリコン…」
思わず口から出た言葉にバーボンとスコッチが噴き出した。
「あ、ごめん」
「別に怒ってはいない」
「怒ってない人はそんな顔しないよ。本当に悪気があったわけじゃなくって」
「ホー……、悪気ではなく本心だったと?」
「だからそうじゃなくって……ってどうして私が謝らないといけないの! あなたが私のことジロジロ見てるからじゃない! だいたい、そんなに怒るって本当にロリコンだからじゃないの!」
「図星を指されたからでしょ」と指差した。
笑ったままのバーボンにも苛立った。そういえばバーボンだって最初はロリコンじゃないのかと思ったし、今思えばジンがあの人相で私を攻撃しなかったのだって不可思議だ。まさかジンもロリコン……。そう考えると鳥肌がたった。
「このロリコン集団!」
そう叫べば、バーボンが固まった。だけどそんなこと気にしている暇はない。三人から逃げるように食器を持って席を立った。一刻も早く部屋に帰りたい。
スコッチの笑い声を聞きながら、急いで食堂から飛び出した。