17
「遅い」
「遅くない」
集合時間ちょうどに玄関にに行くと、腕を組んだバーボンが待ち構えていた。遅刻はしていない。本当に時間ぴったりだった。バーボンの隣のベルモットは遅いとも遅くないとも言わずに挨拶だけしてきた。
「遅刻してないじゃん。遅くないよね、ベルモット?」
「せめて五分前には集合しますよね、ベルモット?」
「どっちでもいいから早く行くわよ」
一刀両断されてしまい、バーボンと目を合わせて肩をすくめた。
私はしばらくバーボンとベルモットとともに人探しをするらしい。今日はとりあえず研究所の周辺をドライブして地理を覚えるのが目的だそうで、何もすることがなく手持ち無沙汰だ。
車に乗ってすぐに、地図と三枚の写真を渡されているので一応見るが、人探しなんて本気を出せば一瞬で終わるし、研究所は並盛の近くみたで知っている場所が多い。のんびりと外の景色を眺めながら、「あ、ここにこんな場所があったんだ」と新たな発見を探すくらいしかやることがない。
「どの辺りまで千里眼が使えるんだ?」
出発してから三十分くらいして、バーボンが口を開いた。
さて、なんて答えようか。最初はイタリアの研究所内だけと言っていたし、特訓をしたわけでもないので同じくらいがいいだろう。
窓の外をキョロキョロと見てから、「うーんっと、あの辺りまで」と数十メートル先のチェーン店を指差した。
「でも、もうちょっと近くだったら詳しくわかるよ!」
「詳しく? どういうことだ?」
説明するより実際にやってみた方が早い、といつも通りの千里眼状態にしてから「この近くに写真の人たちはいないよ」と教えた。
運転しているバーボンの顔はわからないけど、隣に座るベルモットは興味深そうに口笛を吹いた。
「一瞬でわかるの?」
「うん。疲れちゃうけどね」
実際に疲れる。幻術で一定範囲内の人間を一度に見るのは骨が折れるからあまりやりたくない。だけど、私が有益な子どもだと思わせるためにはしかたがない。
「時間かけてゆっくり見た方が、広範囲だと効率がいいからあんまり使えないんだよね」
「そんなことないことないわ。素敵な能力よ」
「えへへ、ありがとう」
美人なベルモットに褒められてしまった。どうしよう、悪い人たちなのにとても嬉しい。
狭い車内に飽き飽きしていたから、たまには力を使うのも悪くないかもしれない。そう思って、千里眼で遠くを見ていると、見慣れた看板を見つけた。
「バーボン!」
私の大きな声に驚いて、バーボンが少し揺れた。
「何か見つけたのか! まさかターゲッ……」
「もうちょっとしたらファーストフード店があるから寄っていこうよ! ドライブスルーしよ!」
バーボンの言葉を遮って言うと、バーボンは「は?」と間抜けな声を上げた。「シェイク飲みたい! シェイク!」とバーボンのシートを後ろから叩くと、私の言っていることをようやく理解したバーボンがため息をついた。
「また甘いものか」
「いいじゃない。シェイクは久々なんだから。ね、ベルモット」
「そうね。いいじゃない、バーボン。愛子は千里眼で疲れているから甘いものを食べたいのよ」
加勢してくれたベルモットが私を見てウインクした。ベルモットがそう言えばバーボンは反対できないようで、渋々ファーストフード店の駐車場に入っていく。
うきうきしながら何味のシェイクにしようかとメニューボードを見ていると、ベルモットが「店内にどんな人がいるかわかる?」と聞いてきた。私はシェイクの味を決めたかったが、嫌がることはできないので、しかたなく目を閉じた。
「どんな人って言われても……。色んな人がいるよ。人数は十人かな。店員さんを入れたらもっといるけど」
「そう。じゃあお店の事務所に誰かいるかわかる?」
「事務所……、いないよ。でも事務所の前に店員さんがいる」
「わかったわ。ありがとう」
「もういいの?」
「ええ。ほら愛子、順番よ。何味にするの?」
目を開ければ、前の車がいなくなっていた。
「え、もう? 待って決まってない!」
「ほら、早くしないと」
「バーボン、急かさないで! あ、えっと、チョコシェイク!」
窓からマイクに向かって叫べば、少し笑った声の店員さんが「前の窓口までお進みください」とアナウンスした。
もう恥ずかしい。バーボンとベルモットに文句を言えば二人とも微かに笑っていた。
「もう。それでなんのために事務所を見させたの?」
無事に窓口でシェイクを受け取ってからベルモットに尋ねた。
「なんとなくよ。ちょうど、あの店に組織の人がいたから、愛子の言っていることが本当か確かめようと思ってね」
「えー! 酷い、疑ってたの?」
「愛子の能力は本当だと思っているけど、目に見えないから確かめたくなるのよ。……バーボン、あなたもそうでしょ?」
「ええ、確かにそうですね」
「バーボンも!」
本気で疑っているわけではないことは、二人の話すトーンからわかったけれど、疑われているのは心地が悪い。シェイクを飲み終わるまでは、唇を尖らせて不機嫌なふりをしておいた。