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小刻みに揺れる心地よい振動に目を閉じれば眠ってしまいそうになる。頑張って目を開いていても、聞こえるのは興味のないラジオの音だけ。音楽よりはラジオの方がいくらかましだけど、それでもペットのお悩み相談コーナーなんて興味なくて雑音でしかない。
うとうとと睡魔と戦っていると、隣で車を運転しているスコッチが笑っているのに気づいた。
「どうしたの?」
「愛子が頑張って起きていようとしているのが面白くてね。昨日はあまり寝られなかったのかい?」
「ううん、早く寝たよ。でもまだ眠たい」
「成長期だからね」
「せいちょうき……」
そんなものは、もうとっくの昔に終わったけれど。
私が成長したらどんな女性になるか楽しみだと話すスコッチに僅かに罪悪感を抱いた。大人になってもベルモットのような美人になれないし、バーボンの横に立つのも恥ずかしいくらいちんちくりんだからあまり色々想像しないでほしい。そりゃあ今は幼いからある程度可愛いけれど、少女の期間が終われば可愛さも失われる。だから本当に過剰に期待するのはやめてほしい。
「愛子は、えっと……今五歳だっけ?」
うん、と頷こうとして一瞬動きが止まった。そして日付を思い出す。
「ううん、六歳だよ。先週誕生日だったの」
潜入捜査中だから誰からも祝われることのない誕生日だった。もう大人だからいちいち誕生日なんて気にしてられないけれど。
だけどスコッチはそうはいかないようで、運転中にも関わらず大声を出して驚いて、そして私の方を見た。とっさに「危ない!」と前を指差せばすぐに前を見てくれて、ほっと息を吐いた。前に車はいなかったけれど、突然こっちを向かれて心臓が止まるかと思った。
「バーボンは、……先週誕生日だったって知っているのかい?」
「ううん、誰にも言ってないから知らないよ」
「……はあ、バーボンが悲しむから言ってあげた方がいいよ。バーボンは愛子のことを気にかけているから、たぶん知っていたら祝いたかったと思うんだ」
そっか。そういえば私だって年下の子の誕生日を祝うのが楽しかったんだった。今はもう誕生日を盛大に祝ってあげる子が少なくなってしまったし、任務続きでタイミングがなかったから忘れていた。
反省して小さく謝れば、スコッチは「謝るほどのことじゃないよ」と笑った。そして「あと祝いたいのは俺もだよ」と優しく呟いた。
「誕生日おめでとう」
「……あ、ありがとう」
こんなに真面目に誕生日を祝われたのは久しぶりで緊張してしまう。少しぎこちないけれど、しっかりとスコッチの気持ちは受け取った。胸がぽかぽかする。冬なのに、春がきたような気持ちになった。
「誕生日プレゼントも用意しておくよ。次に会うときに渡すから、任務がいつまでかわかったら電話して。……あっと、俺の電話番号知らないんだったか」
「うん」
「あとで紙に書くからちょっと待ってくれ。それと、バーボンには愛子から言うか?」
「うーん、そうだね。でももう過ぎちゃったし、わざわざ電話するほどのことでもないから、次に会うときに直接言うよ」
突然、「先週誕生日だったの」なんて電話されたら驚くだろうし。そう言うと、スコッチは「絶対だよ」と力強く確認をとってきた。さすがに私もバーボンを悲しませたいわけじゃないので、そんな内緒にしたりしないよと笑った。
そのまま、明美さんの話やとりとめもない話を続けていると、前に一度だけ来た本部が一瞬だけ見えてきた。もうスコッチとはお別れか。まだ話し足りないけれど、それはまた今度にしよう。
車は舗装された道から砂利道に変わり、ガタガタと揺れる。周りの景色も都会の無機質な色から、枯れ木色に変わった。もうここまで来れば本部は目の前。降りる準備をするべく脱いでいた靴を履いた。
「……どんな任務だろう」
今日、わざわざ本部に来たのはジンに呼び出されたからだ。ジンに呼び出されたからってジンと一緒とは限らないけれど、なんとなくジンと一緒な気がする。
嫌なわけではないけど、ちょっとだけ気が重い。なんたって気軽に冗談が言えないし、好き勝手に動けない。それにジンとだったら大変な任務が待っていそう。
考えれば考えるほど気が重い。
「愛子なら心配いらないだろうが、……へまするなよ」
「うん。気をつける」
任務内容がわからないことには胸を張って心配要いらないとは言えなくて、ちょっとだけ尻すぼみになる。私にとっては怪我の心配よりバレないかの心配だけど。
そうこうしている間に車は緩やかなカーブを描いて曲がり、本部の前に着いた。スコッチは適当な場所に車を停車してから、胸ポケットからメモ帳とペンを取り出して、さらさらと文字を書いてから、そのページを千切って私に渡してきた。
「はい、俺の電話番号。任務の内容がわかったら電話して。あ、他のこととかバーボンに相談しにくいことでも電話していいから」
「うん、ありがとう」
十一桁の番号が書かれたメモ帳を丁寧に折ってポケットの入れた。
「じゃあ、誕生日プレゼント楽しみにしていてくれ」
「うん」
笑って頷けば頭をくしゃりと撫でられた。
もうそろそろ行かないと。シートベルトを外して車のドアを開けて、飛び降りるように外へ出た。息を大きく吸うと木々の香りがする。
振り返ってスコッチに手を振ってから本部の玄関まで歩きだした。