08

 「スリザリン!」組み分け帽子はそう叫んだ。
 やっぱりかと笑ってしまった。まばらな拍手の中、スリザリン生が座る席へ移動した。スリザリン生の半分くらいは拍手を忘れ、物珍しそうに私を見ていた。私――ベガ・アシュレイが長年公の場に現れなかったからだろう。しかたがないことだ。
 席に着くと先輩が話しかけてきた。この先輩は私のことを知らないらしく聞いてくることはすべて家柄や血筋にことだった。私はもちろんアシュレイの名前を出した。そのおかげで何も言われることがなく、先輩は次にスリザリンに振り分けられたら生徒のもとへ向かった。
 ラクスもスリザリンになり、順調に組み分けが進み、ついに見慣れない大きさのトムが立ち上がった。そして壇上に上がり、綺麗な黒髪の上に組み分け帽子が被せられたら。トムは目を瞑り、小さく口を動かしていた。組分け帽子と話しているのだろうか、トムが眉をしかめた瞬間、組分け帽子は「スリザリン」と叫んだ。スリザリンの席に歩いてきたトムは先輩の言葉を無視して私の座る席の前に座った。その顔には笑顔なんてものはなく、冷たい目をしていた。

「ひさしぶりだね」
「ええ、ひさしぶりトム。元気にしていた?」
「ああ元気さ。アクイラさんとローレンシアさんのご好意で君の家に行くことができてたからね。それにしても本当にホグワーツにいたんだ」
「来たのは一週間くらい前なんだけどね」
「……君が消えたとき、君のご両親に何と言えば良いかわからず僕がどれだけ途方に暮れたか知っているかい? ようやくできた友人が目の前で消えた絶望感は? どれだけ心配したかは?」

 苦しそうに言うトムに、胸がキリキリと痛んだ。どうやら私は想像以上にトムの中に入り込んでいたようだ。トムが私の心配をしていたなんて。

「ごめんなさい……。でも、私が消えたのには深いわけがあるの」
「どんな理由だい」
「……長くなるわ、勿論トムに話すわ。……きちんと話したいから明日話したいの。見てほしいものもあるし、会ってほしい人もいるわ」
「そう、……わかった。ベガの言葉を信じるよ。でも本当に話してね」

 不機嫌そうではあるが納得した様子のトムは、私たちが話している間に始まっていた校長先生の学校についての注意事項に注意を向けた。校長先生の話の内容は特に重要なことはなかった。廊下で無闇に魔法を使うな、テストのこと、三年生以上の生徒に向けてホグズミートのこと、そんな内容だった。
 話が終わると料理が現れた。空腹は限界に近かったので、勢いよく目の前のミートパイを取った。

「ベガ、もう少し綺麗に食べろ」

 私のお皿の上の惨状に顔をしかめて、トムが苦言を呈した。
 もう昔のトムに戻っていてホッとした。

「そんなこと言ったってお腹すいてるのよ」
「ここはスリザリンだ。グリフィンドールではないんだから慌てなくても横から全部持って行かれるってことはないだろう」

 今までトムにスリザリンとグリフィンドールの確執を話すような人はいなかったはずなのに、もうグリフィンドールのことを嫌っていて笑いがこぼれた。そういうゴドリックとよく言い合いをしていたサラザールの血を引いているだけある。
 だけど、あまりグリフィンドール生を馬鹿にするのはよくない。トム自身が実際に、グリフィンドール生が人の食べ物を横取りしたところを見たわけでもないのにそういうことを言うのは偏見でしかない。

「寮は関係ないでしょ。純粋に早く食べたいのよ」
「好物だから?」
「あら、覚えてた?」
「そりゃあ、君の家でご飯食べるとき、いつもミートパイを食べていたじゃないか。嫌でも覚えるさ」

 言われてみれば、その通りだった。
 トマトとミートとポテトが織り成すハーモニーが大好きで、トムにも好きになってほしくてトムが来る日の夕食のリクエストにしてたっけ。まさか、そのせいでトムがミートパイに飽きていたなんて、あの頃はちっとも思わなかった。
 ザクザクとミートパイを頬張りながら昔話に花を咲かせる。
 昔から頭の良かったトムは鮮明に昔のことを覚えていた。私の忘れていたようなことまで話題に出してきた。

「本当に君には驚かされることがたくさんあったよ。覚えているかい? 君が家のピクシーを一匹残らず捕まえようと虫かごにぎゅうぎゅうに詰めてたこと。あの後、ローレンシアさんから酷く叱られて、ずっと泣いてただろう?」
「忘れてよ! そんなこと!」
「君が教えてくれた魔法も全部覚えているよ。それから、君がいない間にアクイラさんの書斎の本、読破したから」
「えええ! 絶対にトムより先に読破しようと思ってたのに」
「ちなみにベガが挟んでた栞は全部回収しているから、次に読むときは一から読みなよ」

 どうせ覚えてないでしょと、悪魔のような顔で笑った。
 パパの書斎は小さな図書館と言えるくらいの所蔵量と広さがある。本の種類は多岐にわたり、絵本や魔法をわかりやすく図説したものもあった。そのためパパがいないときは私とトムの遊び場所のような扱いだったのだ。あのころと違い、魔法関係ではチートのような記憶があるので読み進めるのは楽だろうが、ホグワーツ卒業までに読み終えるだろうか。とりあえず式が終わったら、フクロウを飛ばして数冊本を運んでもらおう。休暇中に読むには無理がある量だ。
 私に対しての苛立ちを話している内に発散したのか、次第にトムの顔は明るくなってきた。
 滞りなく式は終了し、スリザリン寮に案内された。昔あった場所だが、ここも中の様子は少し変わっていた。千年前と違って生徒数が多いのだから当たり前だろう。
 もう少しトムと話したかったが、次の日から早速授業が始まるため、先輩に部屋へ行くように促された。別れ際、トムに話は明日の授業が終わってからするねと告げると、とても良い笑顔で「おやすみ」と挨拶をされた。綺麗な笑顔だったが、背筋が寒くなった。

ヒトリヨガリ