07

 学校が始まる直前のダイアゴン横丁は思いの外、混んでいた。小さな私の体では人混みをかき分けることができず、気づけばソウとはぐれてしまっていた。しかし、先に今日の予定を組んでいたし、何かあれば私は魔法を使えるしソウも力を使ってくれるだろう。
 行く予定だった店を探すかとキョロキョロと顔を動かしていたら人とぶつかった。前を見ると、堅苦しそうな服を着た男の子が不快そうな顔をしていた。プラチナブロンドの髪は一本も取りこぼすことなく後ろに撫でつけられていて神経質そうだ。男の子の横にはよく似た男性がいた。きっと親子だろう。
 慌てて軽く謝り、ついでにフローリシュ・アンド・ブロッツ書店の場所を訊ねた。

「フローリシュ・アンド・ブロッツ書店なら、近くに大きな家具屋があるからそれを探せばいい。が、少し離れたところにある。私たちも後でそこへ行くつもりだったので連れて行ってやろう」
「え、あ、ありがとうございます。でも大丈夫ですか?」
「なに、買い物の順番が変わったくらい、何も問題はないさ」

 軽く微笑みながら言っているが、目が笑っていない。これは面倒なことになったなと軽く後悔をしながらも断ることはできないので一緒に行くことにした。

「お嬢さんは今年ホグワーツへ入学かな?」
「はい。あ、ベガ・アシュレイです」
「そうか、私の息子も今年ホグワーツへ入学するんだ。」
「……アブラクサス・マルフォイだ」
「この通り、愛想はよくないが悪い子じゃないんだが仲良くしてやってくれないか?」
「ええ、勿論です」

 まさかマルフォイ家の者だとは思わなかった。もしかして、私がアシュレイ家の者だとわかって案内を買って出たのか? まさか、そんなわけはないか。この姿を知っているはずない。
 マルフォイさんはパパとママのことは知っているらしく、昔話を聴かせてくれた。パパもママもレイブンクロウ生だったらしい。

「アクイラの兄がスリザリン生でね、私の友人だったんだ」
「パパにお兄さんがいたんですか」
「もう亡くなっているけれどね。悪い魔法使いに殺されてしまったんだ」

 悪い魔法使いと聞いてドキリとした。それに、会ったばかりの子供にこんな話をするマルフォイさんにも驚いた。アブラクサスは相変わらず無表情で私の横を歩いていた。
 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店が見えてきたころ、マルフォイさんが他に行くところを訊いてきた。

「あとは制服を作りに行くだけです」
「そうか。アブラクサスもまだ制服を作りに行っていない。もしよければマダム・マルキンの洋装店へも案内しようか?」
「あ、ありがとうございます……、でも迷惑じゃないですか?」
「構わないさ。なあ、アブラクサス?」
「はい、父上」
「それなら……お願いします」
「それにしても、どうして一人で来ているんだい? アクイラかローレンシアと一緒ではないのかい?」
「パパとママは都合がつかなくて代わりの者と来ていたのですが……はぐれてしまって」
「おや、ではその者は今君を探しているのではないか?」
「たぶん、そうですね。でも行く順番を決めていたのでフローリシュ・アンド・ブロッツ書店かマダム・マルキンの洋装店で落ち合えると思います」
「そうか。それは安心したよ」

 フローリシュ・アンド・ブロッツ書店ではマルフォイさんは中に入って来ず、アブラクサスと二人きりになった。なんでもマルフォイさんは家具屋に用事があるらしい。
 気まずい中、二人でリストと照らし合わせて教科書を選んで行った。その間、アブラクサスはたまに私をちらちらと横目で見ることがあった。大方の教科書を選び終わったころ、アブラクサスは言葉を選ぶように口を開いた。

「君は……私のことを覚えては、……いないようだな」

 アブラクサスは少し落胆したように言った。覚えているか確認したということは、合ったことがあるということだ。いったいどこで? 考え込む私を見てアブラクサスは「君の家のパーティーだ。覚えていないのも無理がない。まだ小さかった」と言った。
 小さいときの私を知っているだけじゃなく、その姿と今の姿がリンクするなんて。ただパーティーで挨拶しただけなわけない。

「君が心配していた友人の男の子は、無事にホグワーツに入学が決まったか?」
「トムのことを知ってるの?」
「勿論だとも。君はその子のことばかり話していたからな」

 私の家でのパーティー、トムの話、堅苦しい服、すべて思い出した。

「もしかして、ラクス?」
「ようやく思い出したか」
「そんなこと言ったって、会ったのあの一回切りだったし……」
「元々君はパーティーには出なかったし、あの後君が顔を見せることはなかったからな。私の父上や他の者たちはベガが死んだんじゃないかとか、掌中の珠だから表にださないやらと憶測が飛んでいた」
「そ、それには深いわけがありまして……」
「だろうな。まあ、君が元気そうでよかった。それでトムとやらはホグワーツに入学するのか?」
「ええ、勿論よ。トムはホグワーツでラクスと同じ寮になるだろうからよろしくね」
「君は同じ寮にならないのかい?」
「さあ、わからないわ。トムとラクスがいるならスリザリンも楽しそうだけれど、他の寮でも面白そうだもの」
「まったく、君は本当に好奇心が旺盛だな」

 最後の一冊をお互いに本の山に積み、会計をしようとしたところで荒々しく扉が開いた。何事かと振り返ると、怒気を含んだ形相のソウが立っていた。ソウはずかずかと近寄ってくると、私とラクスを引き離した。

「どこに行ったのかと心配してたぞ!」
「ごめん、でもそんなに心配しなくてもいいじゃない」
「心配するもんはするんだ!」

 ソウは私の耳もとで「よりもよってマルフォイといるなんて、心臓が止まるかと思ったんだからな!」と怒る。原作のマルフォイ家のことを考えれば警戒するのも仕方ないが、目の前のラクスはまだ毒気のない幼い姿。

「えっと、ベガ……この人が連れの人か?」
「ええ、そうよ」
「ソウだ。あー……俺のことはホグワーツに入学したら嫌でもわかるから説明はしない」
「ややこしい事情があるのよ」
「そうか。私はアブラクサス・マルフォイだ」
「ラクスは昔会ったことがあるの」
「昔? ……あー、ああ昔か。わかった」

 アイコンタクトで詳しいことは後で言うと伝えた。
 会計を終え店の外に出るとマルフォイさんが待っていた。連れと合流できたのでマダム・キルソンの洋服店への道案内はいらないことを告げる残念そうにしていたが、特に強引についてこようとするわけでもなく、あっさりと引き下がった。
 マダム・キルソンの洋服店で制服を仕立てている間に、ソウにあったことを話した。少しうなだれたが、入学したらスリザリン寮だけにはなるなと忠告されるだけで済んだ。しかしトムはスリザリン寮生になるのだし、既にラクスとは親しくなっているのだから今更距離を置いてもしかたがない気がする。それを口にするとまた小言を唱えられそうなので、心に仕舞ったまま肯いておいた。

ヒトリヨガリ