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鮮やかな青空に、真っ白い雲が流れ、太陽は今日も明るく忍術学園を照らしている。
遠くから、小鳥のさえずりが聞こえてくるを耳にしながら、俺は久々に訪れた平穏な日常を噛み締めていた。
「本当にもう天女さまは来ないのだろうか……」
「なんだ滝、随分と消極的だな」
「いや、急にそう言われても実感がわかなくてだな……」
難しい顔をする滝に、珍しく三木が同意した。
「市蔵は、その本物の天女さまとやらに会って、実際に妖術を見たからすんなりと納得するんだ。私たちは今日起きて、『もう天女は来ないと、本物の天女さまが言っていた』と聞かされただけだから」
「まあ、眉唾物のような感じだよな」
天女さまが到来して一夜明けた今日。授業は休みなので、いつもの四年の顔ぶれとのんびり過ごしていた。
恵子ちゃんたちがいる間もゆっくりとすることはあったけれど、思えば何も気にすることなくダラダラするのは久しぶりだ。
だというのに、滝と三木は依然として真面目な表情をしたまま。俺が持ってきたみたらし団子を両手に持って食べてる喜八郎や、楽し気に窓の外の鳥を眺めているタカ丸を見習ってほしい。
「でも本当にもう来ないのか心配してたって、俺たちにはどうすることもできないだろう。それより早く団子を食べないと、喜八郎が食べ尽くすぞ」
「あ、喜八郎! それは何本目だ!」
「さあ」
「さあってなあ! 私の分まで食べてるんじゃないだろうな!?」
「だって滝夜叉丸、いらなそうだったし」
「でもいらないとは言ってないだろう!」
大慌てで滝は包みの上に残されたみたらし団子を二本取って、懐紙の上に避難させた。
三木もそれに倣って、しかし喜八郎に食べられていない分、一本多い三本を避難させた。
二人とも、褐色のてらてらと輝く団子を一口かじると「美味しい!」と感嘆の声を上げた。さっきまでの鬱蒼とした雰囲気は消えていた。
「相変わらず、市蔵が選ぶ菓子はうまいな」
「さすが学級委員長委員会」
「そうだけど、なんかそれだと学級委員長委員会がお菓子選ぶの上手な委員会みたいじゃないか」
「違うのか?」
「違うこともない……」
茶会をしていたり、学園長先生から高価な菓子をいただいたりして目と口は肥えている自覚がある。選ぶのもうまくなっているだろう。
もちゃもちゃと咀嚼した三木は、まだ残っているみたらし団子をじっと見つめた。
「何か光っていないか?」
三木は日向に向けて、団子の串をくるくると回した。
「タレの中に金色の……」
「ふふふ、気づいたか。持って帰ってくるときにぐちゃぐちゃになってしまったんだが、実は金粉がまぶしてあったんだ!」
「はあ? 金粉!?」
「ぐふっ!」
三木が叫び、滝が噎せた。喜八郎とタカ丸も、驚いたように、くりくりの目を見開いている。
「鉢屋先輩から教えてもらった甘味処で買ったものなのだが、女子に人気というだけあって、見た目も素晴らしいものだった。崩れてしまったのが惜しい。今度はみんなで店で食べよう」
「いや、確かにきれいな状態も気になるけど! 金粉!?」
「贅沢だろ?」
「贅沢ってもんじゃないだろ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人に熱い茶を渡して落ち着かせた。
俺も店で驚いたが、平然と食べている客たちを見ていたから比較的あっさりと受け入れた。
「とはいえ、寺で使われているものとは別だ。食用らしい」
説明すれば、いくらか表情は和らいだ。
そして、もう菓子になっているのだからと最終的には諦めて残りの団子に口をつけた。
穏やかな昼下がり。気心の知れた学友と、なんでもない話を楽しんで過ごす時間。
日差しも暖かく、遠くから下級生の笑い声が聞こえてくる。
ああ平和だ。
なんて素晴らしい、我が忍術学――。
「うわああああああ!!!! なんだお前は!」
「花房牧之介だ!」
「小松田さんが書類に墨をぶちまけたぞ!」
「きゃああ! 私の服に大量の虫が!!」
「七松小平太先輩のレシーブが学園長先生の盆栽にぶつかったぞ!」
突然、嵐が来たように外が騒がしくなった。
安穏は長くは続かなかったようだ。
俺たちの部屋の前を、一年は組の良い子たちがやいのやいのと楽しそうに走り抜けていく。きっと騒動に片っ端から首を突っ込んでいくのだろう。あの子たちはそういう子らだから。
ふと、天女さまが帰る直前に残した言葉を思い出した。
――「あえて言えば、あの子たちが楽しめたらいいなって思ったの」
それはきっと、天女さまが彼女ら三人をここに送った理由。「あの子たち」は、嬉々として台風の目になる一年生たち。
その言葉を言ったとき、天女さまは初めて表情を和らげたのだ。本当に愛おしいという気持ちが溢れたのが見て取れた。
思えば、上級生は色々と大変だったが、下級生は過酷な委員会活動が一時休止になったり、別の世界の話を聞かせてもらったり、一緒に遊んでもらったりと楽しそうにやっていた。多少の混乱はあったが、そんなもの日常茶飯事だ。天女のごたごたも過ぎてしまえばいつもの騒動と変わらない。
「はは、外は楽しそうだなあ」
「どこがだ市蔵! 私は七松先輩の様子を見てくる!」
そう言って滝は最後の団子を口に詰めて出ていった。
そのすぐあとに障子が開き、顔を覗かせたのは潮江文次郎先輩だった。先輩は三木の顔を認めると「書類に不備があったから今から緊急の委員会を開く」と言って足早に去っていった。
それと入れ替わるように今度は池田三郎次が現れ、タカ丸に「久々知先輩が豆腐料理を作ったので、食堂に集合だそうです」と手短に伝えて出ていった。
「あー頑張って、二人とも」
「あ、ああ……。不備が簡単であることを願ってる。……行ってくる」
「いってらっしゃーい」
出ていく二人を見送った喜八郎も、脇に置いていた踏鋤を手に持って「僕も穴堀に行こう〜」と自由気ままに部屋を出た。
一人ぽつんと残ると、なんだか笑いが込み上げてきた。
「ふふふ、それじゃあ俺も女装して誰かをからかいに行くとするか!」
今なら俺のことを知らない花房牧之介もいる。新鮮な驚きを見せてくれるだろう。
部屋の外から、いまだに悲鳴や怒号や笑い声が聞こえてくる。
騒がしくて五月蝿くて、たまにめんどくさい。いつだって事件が起きている。そんな愛すべき忍術学園で今日も元気に俺たちは生きていく。