151
「続いてのニュースです。本日行われていた東京スピリッツの優勝パレード中、爆発事件が起こりました。警視庁に予告状が届いており、警備に当たっていたことから――」
テレビから聞こえる音に、手に持っていたペットボトルが滑り落ちた。
「うわあ!」
パシャンと服と床が赤に染まる。
よりによってトマトジュースだ。後片付けがめんどくさい。
転がっているペットボトルをシンクに置いてから、キッチンクロスで床を拭く。薄いクロスはすぐにびちゃびちゃになってしまった。
「何か音がしましたけど……、大丈夫ですか⁉」
ダイニングに入ってきた透くんは、四つん這いになっている私を見ると目を見開き血相を変えた。そして私の目の前に膝をつき、「ん?」と怪訝な顔をする。
「……トマトの匂い?」
「トマトジュースこぼしちゃった」
「はあ、そうですか。僕はてっきり……」
「血かと思った? そんなベタな間違い透くんでもするんだね」
「部屋に入って胸部から下にかけて真っ赤に染まっている人がいたら、誰だって驚きますよ」
誰でもじゃないでしょ。私たちはそうなった人をよく見るから咄嗟に脳が思い浮かべてしまうんだよ。
透くんもそう思い至ったらしく、口元をむずっと動かした。
「……そんな薄いクロスだと全然拭けないんじゃないですか?」
「うん。でも私の服も靴下もトマトジュースまみれだから動き回れないの」
言いながら、透くんに両腕を伸ばした。
お風呂場まで連れていってくれたら嬉しいな。
きっと断られると思った、ほんの出来心の冗談のような行動だった。それなのに、透くんは冗談であることも理解した上で白々しくにっこりと笑って私をぐっと抱き上げた。
「……大きくなったね」
「それ、だっこした女の子に言うのは禁句だよ」
デリカシーのない透くんの膝をげしげし蹴ると、透くんのズボンにもトマトがついた。それに抱き締めているせいでトレーナーにも。
トマトジュースを溢した私が方が絶対に悪いのに、透くんはそのことに触れることなく「ごめんごめん」と笑いながら軽く謝って、そのまま私を浴室まで運んでくれた。
「髪の毛にもついていますね。着替えとタオルは持ってくるからシャワー浴びましょうか」と言いながら、透くんは自分のトレーナーを豪快に脱いで洗濯機に放り込んだ。
小学生相手に恥ずかしがられても困るけど、それにしたって浴室のドアを閉めて脱いでもよくない? と言いそうになった文句を飲み込んで、脱衣所から出ていく透くんの背中に「ありがとう」と呟いた。
服を脱いでシャワーを浴びてから、着替えに下着も含まれることに気がついて今度こそ項垂れた。
私が動揺したニュースは、「警察への予告状」「爆弾」というキーワードはあるものの、松田の事件とは関係のないものだった。
お風呂から上がり部屋に戻って、佐藤さんから今日の事件はただの郵便局を狙ったもので、もう犯人は捕まったと教えてもらった。事件に当たっていた佐藤さんは仕事が忙しいらしく、外は真っ暗だというのに私の質問に答えるとすぐに電話を切った。
十一月になっていないし、頭では違うとわかっていても心臓はじくじく痛んでいた。
松田の事件の爆弾犯は今この瞬間どこで何をしているのだろう。何を見て、何を感じて、何を考えているのか。
今日だけじゃなく日々爆弾事件は増え、それがニュースで伝えられている。松田の事件の犯人は、それを見ているのだろうか。触発されはしないだろうか。風が冷たく感じるにつれ、そんなことばかり考えてしまう。ハロウィンにはしゃぐ世間とは真逆の心境だった。