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ベッドに寝転がってふわふわの枕を抱きしめながら、近くの椅子に座るスコッチを見上げた。バーボンは少し遠いところに座って、一回弦を弾いてはギターの先のネジを回している。
組んだ足の上の方にギターを置いて伏し目がちに音を合わせていると、長い前髪が目にかかり、どこかミステリアスさを感じさせ絵になる。
それを見ているのも楽しいけど、せっかくスコッチがいるのだから会話を楽しみたい。チューニングの邪魔にならないように、スコッチの耳元に近寄った。
「最近、このホテルの近くの喫茶店に行ってるんだけど、そこに綺麗なお姉さんがいて、大月さんって言うんだけど、すっごく優しいの。美人だし優しいし料理もうまいんだよ」
「素敵な人だね」
「でしょ。スコッチにも会ってもらいたいな。あ、でも好きになっちゃだめだよ。大月さん結婚してるからね」
冗談っぽく笑えば、目を合わせてスコッチも同じように笑った。
バーボンも大月さんと会ったことがなくて、会いたいらしいが私はあまり会わせたくない。
なんたってバーボンは物腰が柔らかく見かけは優しい。そしてなによりかっこいい。いくら大月さんが貞淑な女性だとしても、バーボンの甘さの中にある危険な香りに惹かれてしまうかもしれない。新婚の大月さんに修羅場を味わわせるわけにはいかないんだ。
こそこそと内緒話をするようにスコッチと話していると、チューニングを終えたバーボンがギターを少し持ち上げて見せてきた。
「で、何を弾いてほしいんです?」
「あれ? ここで弾くの?」
チューニングしているバーボンを何も思わずに見ていたけど、ここはホテルなんだからギターは弾いちゃいけないんじゃないの? きょとんとバーボンを見上げると、何を今さらという顔で「ここは防音がしっかりしてますから、アンプに繋がなければ大丈夫ですよ」と教えてくれた。
アンプ? と頭の上にクエスチョンマークを出しながら、まあバーボンがそう言うなら大丈夫なんだろうと納得した。
スコッチも「昼間だしな」と言うし。
バーボンにしてもスコッチにしても、自警団を名乗っているボンゴレよりも真面目なときがあるから。というか絶対にヴァリアーより常識人。同じ暗殺を生業としているのに人間性に雲泥の差がある。
弾いていいのならと曲をリクエストしようと思ったけど、私がいろんな曲を知っているのはおかしいと気づいて口をつぐんだ。そしてものの数秒で頭をフル回転させて「バーボンの好きな曲が聞きたい」と百点満点花丸をあげたくなる答えを導き出した。
「僕の?」
「うん。楽しい歌とか、明るい歌がいいなあ」
バーボンとスコッチは打ち合わせでもしたのかと思うくらい同時に顔を見合わせた。
「そうですねえ……。本当はアコギがあればいいんですが」
予想していなかっただろうリクエストに、バーボンは戸惑いながらも音を確認するように少し弦を弾いたあと、ひと息ついて、トントンとギターの縁を叩いてカウントをとってから演奏を始めた。
バーボンが言ったようにエレキギターはあまり音が響かない。シャカシャカと軽い音がして少し迫力に欠けるけど、それでもよどみのない指の動きでバーボンが上手だということはわかった。やっぱり「上手くはない」なんて言葉嘘だった。
前奏だけでは音が聞き取れず何の曲がわからなかったけど、Aメロが始まって、やっとそれが私の中学のときに流行った曲だと気づいた。バーボンはアップテンポなその曲を、右手の親指と人差し指、中指の三本を使って丁寧に流れるように弦を弾いていく。
Bメロが終わり、一呼吸置いてサビに入るのに合わせてスコッチが歌詞を口ずさみ始めた。過去と現在が交錯する友情の詩。呟くようなスコッチの歌声は、大人っぽい顔に反して優しく可愛い。幼いころの友達との思い出を辿る青春の曲によく合っている。
バーボンの弾くノリのいいリズムに、スコッチの甘やかな声が溶けて部屋に響いた。
すべて弾き終わったバーボンは、「こんな感じですね」と得意気に笑った。
「上手だねー! スコッチの歌もすごくよかったよ!」
ちゃんと聴きたいくらい、と付け加えて拍手するとスコッチは照れたように笑った。
「歌うつもりはなかったんだけどなあ」
「歌いたくなっちゃったんだ」
「ああ。懐かしくてな。俺らが高校のころの曲で、当時の男子高校生はカラオケに行ったら絶対に入れていたと思う」
「文化祭の軽音楽部の定番曲でもありましたね」
心地の良い小春日和にふさわしい、のどかな空気に包まれた。
今の二人からは想像もつかないけど、組織の人だって青く多感だったころがあって、朝の怖さも夜の優しさも知らずに過ごした学生時代があったんだ。
誰にだって懐古する過去がある。二人の曲が、そんな当たり前のことを思い出させてくれた。