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松田とそんなやり取りをした半月後、無事に松田は復職を果たし、連絡が取りづらくなった。しばらくは会えないかと、ほんの少しだけ寂しくなった。
だけど、再会は早かった。
人がごった返す観光地を避けて細い道を歩いていれば、偶然見知ったもじゃもじゃ頭を見つけたのだ。
初めて見るスーツ姿の大きな背中に向けて思わず「松田!」と声をかけてしまったのは仕方のないことだと思う。
ゆるりと振り返った松田の顔には相変わらずサングラスがかかっていた。そして私を認めてから気だるげに「おう」と片手を上げてこちらに歩いてきた。
「こんなところでどうしたんだ」
「それ、私の台詞。どうしたのスーツデート中?」
いつも松田が一人のところしか見たことがなかったけど、今日は彼の隣に女性がいた。それもタイトなスカートスーツを着こなした、きりりと美人な女性だ。遊びのない短い黒髪なのに地味に見えず、そのシンプルさが逆に彼女自身の魅力を引き立てている。
にやりと笑って松田を見上げれば、「バカ言うな」と強めに頭を叩かれた。女性も嫌そうな雰囲気を隠しもせずに漂わせている。
細い道ということで、私たちの周りには極一般的な家が建ち並んでいるだけだ。もちろんデートに向くようなものもなく、私の言葉も冗談でしかない。それは二人もわかっているはずなのに。
美男美女なのに気が合わないのかな。
松田はめんどくさそうに肩をすくめた。
「聞き込みだ」
「すごい! まるで警察みたい!」
「警察だからな」
「自称警察官じゃなくてよかったわ。ちょっとだけ頭をよぎったの」
「相変わらず失礼なやつだな」
ぐりぐりと私の頭を押さえる松田に、女性刑事が恐ろしい形相をした。美人が怒ったら本当に怖い。私に向けられたわけじゃないのに肩が震えた。
「ちょっと、小さな女の子になにやってるのよ! もっと優しく撫でてあげなさいよ」
「撫でてねえよ。それに、こいつはこんなのでいいんだよ」
「よくないよ、陣平お兄ちゃん! 私、繊細なんだからガラス細工に触れるように優しくしてよ」
「ほら、この子もこう言ってるじゃない」
白々しく子どもっぽく振る舞い、女二人で責めるような目を向ければ、松田は「ったく」とうんざりしたような顔をしながらもふんわりと私の頭を一撫でした。
「そうだ今度、飯に連れていってやるよ」
「二人で?」
「ああ」
「ごめんね。松田のことお兄ちゃんに軽く話したら、『たまたま知り合った小学一年生の女の子と仲良くしようとする大人の男と二人きりになるな』って言われたの」
「気に食わねえ兄ちゃんだな」
「何言ってるの松田くん、立派なお兄さんじゃないの」
「だからってな。……おい愛子、ちゃんと『松田陣平は立派な警察官でロリコンじゃない』って兄ちゃんに言っとけよ」
松田は愉快そうに笑って「じゃなきゃ飯に行けねえからな」と言った。
松田はぶっきらぼうだしだらしなさそうに見えるけれど、実のところノリがよくて真面目で面倒見もいい。ふざけて適当なことを言ったりもするが、さっき結局ふわりと撫でてくれたように優しさもある。そう思って「松田って親戚の女の子の初恋を奪ってそうだね」と言えば、女性刑事が信じられないとばかり「こんな粗暴な男が!?」と声を荒らげた。
「無愛想だし、聞き込みのときの態度なんて最悪なのよ」
女性にそう言われた瞬間、松田がむすっとした顔に変わった。きっとこれが彼女が見ている仕事中の松田の顔なんだろう。
私が初めて会ったときと同じだから、その気持ちはとても共感できる。とてもじゃないが小さな子供に好かれそうではない。逆に泣かれそうだ。ただ、本来の松田はそうでないことを私は知ってしまった。
女性は私の小さな肩を掴み、どれほど素行が悪いかを語ってくれた。なんだか三者懇談みたいだと笑っていられたのは、そのときまでだった。
「……しかたがねえだろ」
吐き出された言葉になぜか妙に胸騒ぎがした。その表情か、声音か、それとも空気か。何かが警鐘を鳴らした。
神社で会っていたときから時折、思い詰めた顔をすることがあったけどそのときは何も感じなかった。だけど、今はそれを無視してはいけない気がした。
思いきって踏み込んだ話を聞こうとしたが、私が言葉を出す前にぱっと女性警官が腕時計を見て「そろそろ仕事に戻りましょ」と松田に声をかけてしまった。聞き込みということは何かがあったということだろうし私にはどうすることもできない。まさか嫌な予感がするから一緒にいてなんて、女性警官に対してならまだしも私が大人であると知っている松田に言うのは恥ずかしい。「じゃあな」と言って遠ざかっていく背中を見送りながら、私に超直感があったらと、ないものねだりをせずにはいられなかった。