新幹線で出会う話のコナン君視点
「お父さん早く! 後ろつっかえてるんだから」
「わあってるよ、ったく」
ぶつくさ言いながら蘭の前を歩くおっちゃんは少しだけ足を早めたけれど、それでもゆっくりだった。チラッと後ろを見ればキャリーケースや大きな荷物を持った老若男女様々な人が早く進まないのかと不満顔で並んでいる。
しかしおっちゃんが遅いのもしかたがない。手に持ったチケットの番号を確認しながら、狭い新幹線の通路を歩いているのだから。もうすでに席を見つけた人は、早々に荷物を整理していて通路を通るのも一苦労。欠伸しながらよたよたと歩くのについていけば、ようやくおっちゃんが嬉しそうに「あったぞ!」と席を指差した。
ボックス席に腰を下ろすと息つく暇もなく、蘭に鞄を渡された。おっちゃんも同じく。
「ほら、鞄の中ちゃんと確認して? 慌ててたから忘れ物したかもしれないでしょ。あと中身の整理もね。……特にお父さん?」
じとりと見られたおっちゃんは「へいへい」と嫌そうながらも鞄の整理を始めた。俺も蘭に怒られないうちにさっさと膝の上の鞄に目を向けた。
とはいっても小学一年生が背負う鞄だ。中身はそんなに入っていない。忘れ物という忘れ物も、大事なものは蘭が用意したから問題ない。しばらく片付けているフリだけしていると、頭上の荷物棚に大きな鞄を入れていた蘭が「キャッ」と小さく悲鳴を上げた。すぐに少女の謝る声が聞こえたから、子どもが蘭にぶつかったのだろうとあたりをつけて鞄の中を見ていたが、なかなか少女は離れていかない。痺れを切らしたおっちゃんが通路に顔を向けたのと同じタイミングで俺も蘭の方を見た。
蘭の隣にいたのは、今の俺と同い年くらいの女の子だった。落ち着いた色の服を着ていて歩美よりも大人しそうなのに、表情や仕草は幼く見えた。
新幹線の中を「探検しているの!」と元気よく言った少女を見て、蘭は少女が一人で歩き回っていることを心配してか、一緒に喋ることを提案した。少女は笑顔で了承して俺の隣の席に座った。
「私は毛利蘭っていうの。蘭お姉さんとか蘭お姉ちゃんとか気軽に呼んでね。私妹ってほしかったのよ」
「うん! 蘭お姉さんね」
「で、こっちがお父さん。毛利小五郎っていって眠りの小五郎って呼ばれてるんだけど、わかるかな?」
「ううん。わかんない」
無邪気に首を横に振る少女に、おっちゃんが少しふくれた。当たり前だろ。普通の子どもは殺人事件なんて興味ねえからな。
少女は「蘭お姉さんと、小五郎おじさんね」と復習するように呟いてから、俺の顔をじっと見てきた。
「君の名前は?」
「あ、僕の名前は江戸川コナンだよ!」
名乗れば少女は数回まばたきをしてから俺と蘭の顔を見比べた。てっきり兄弟だと思っていたから驚いたのだろう。だけど少女は名字の違いを気にすることなく「江戸川くんだね」と俺の名前を復唱した。そりゃそうか。こんな小さい子どもが離婚や養子やそういうことは知らないことも多いだろう。
こちらは自己紹介を終えたので、次は少女の番と蘭が名前を訊ねれば、少女はにっこり笑って「愛子です!」と元気よく返事をした。名字は、と気になったけれどそれも子どもだからいつも呼ばれている名前しか覚えていないとかなんだろう。ニコニコ笑って「愛子ちゃんか〜、可愛い名前だね」なんて言っている蘭も、このあとの予定を確認しているおっちゃんも、愛子が名字を名乗っていないことを気にしていなかったし、俺が気にしすぎなだけだろう。
蘭と愛子が話しているのを眺めていると、ふと誰かの顔が脳裏をよぎった。だけどそれが誰で、どこで会ったのかまでは思い出せない。くそっ、モヤモヤする。
どうにか思い出せないかと愛子を見ていると、愛子も俺の方を見てバッチリ目があってしまった。
「どうしたの?」
「あ、いやあ……。どこかで会ったことがあるかなって思って」
嘘をつくようなことではないから正直に白状すれば愛子がぐいっと体を寄せて俺の顔を覗き込んできた。目を真ん丸に開いて俺の顔をじいっと見たが、すぐに「うーん、私は覚えてないなあ。人違いじゃないかな」といって考えるのをやめてしまった。
俺も思い出せないし、愛子も人違いだと言うんだからそれで済ませればよかったのに、どうしても追求しないといけない気がして無意識に「ほんとう?」と犯人を追い詰めるように詰め寄っていた。
「本当だよ。そんなに言うなら江戸川くんはどこで私と会ったの?」
「それは……、覚えてない」
「うーん、どのあたりで会ったかわかれば私も思い出せるかもしれないんだけどね」
胸のつっかかりは消えないが、こればっかりはどうしようもない。
そのあとすぐに、おっちゃんから「ナンパか」と冷やかされたのでこの話は止めにした。思い出せないということは、その程度の接触しかなかったのだろう。そう自分に言い聞かせて納得させた。